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スマホやSNSに疲れたら“脱デジタル”生活 「圏外」旅行がブームに
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いつでもどこでもインターネットにつながり、連絡を取り合うことのできるスマートフォン(スマホ)。便利な半面、四六時中、画面を見る習慣が生じやすい。いっそのこと電波の届かない場所に行きたい-。こんな願望をかなえる旅のスタイルが、静かに広がっている。(村島有紀)
「(インターネット交流サイト)フェイスブックをやめたい。メールも見ない。何にもつながらない場所に行きたい」
こう思い立った東京都港区のグラフィックデザイナー、白木彩智(さち)さん(26)は昨年、1週間の有給休暇を取り、船で伊豆諸島の最南端、東京都青ケ島村を訪れた。約6平方キロメートルしかない小さな島で、村の中心部以外は携帯電話の電波が届かない場所が多い。念のためスマホの電源もオフにした。話し相手は実際に会った人々だけ。島を案内してくれる親切な人々と出会い、思い悩んでいた自分の将来のことを一時的に忘れられた。
「フェイスブックを見ていると、他の人が『すごく頑張っている』と刺激を受ける半面、自分と比べて落ち込むことがある。だから、つながらないことそのものに価値を感じる」と白木さんは言う。
携帯電話やインターネットといったデジタル環境から距離を置く行動は「デジタルデトックス(デジタル環境からの解毒)」と呼ばれている。数年前から米国で広がり始め、国内でもデジタルデトックスと銘打った宿泊サービスを提供する施設が登場している。
静岡県熱海市の宿泊施設「リトリート櫛稲(クシュナダ)」では今年8月から、デジタル機器と距離を置く1泊2日の宿泊プラン(2万4840円)を月1回のペースで提供している。チェックインの際、デジタル機器をフロントに預け、お茶会や呼吸法などの講習を受ける。運営する「櫛稲」の江口未来(みれい)代表は「お茶会や瞑想(めいそう)、温泉で、リフレッシュしてほしい」と話す。
星野リゾートグループの温泉旅館「星のや軽井沢」(長野県軽井沢町)では、9月から11月まで平日期間限定で2泊3日の宿泊プログラム「脱デジタル滞在」(7万1280円)を提供中だ。夜のハイキングや、浅間山を望む紅葉の美しい場所での野外風呂作り、目の疲れを癒やすための指圧の施術とワークショップなどがある。
総務省の情報通信白書(平成26年版)によると、昨年末の携帯電話の世帯保有率は94・8%。このうちスマートフォンは22年末に9・7%だったのが25年末には62・6%と急増。それに伴い、メールやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に「疲れ」を感じ始めた人も出てきているようだ。
JTB総合研究所(東京都千代田区)は先月、過去1年以内に旅行したことがあるスマホ利用者の男女2060人(18~69歳)を対象に実施した旅行の傾向に関する調査結果を発表した。それによると、「あえてSNSがつながらない場所に出かけた」という人が45人いた。
調査を担当した同総研の早野陽子さんは「SNSを多用する人とSNSから距離を置きたいと考える人の二極分化が始まっている」と指摘。「特に働いている人はプライベートの旅行中も仕事から完全に切れることがなく、オンとオフの境界線があいまいになりがち。『つながらない』場所を求める人は一定数いる」と話している。
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「インターネットなどデジタルメディアには中毒性と依存性があり、時に現実の人間関係を上回るほど優先されることがある」。「デジタルデトックスのすすめ」などの著書があるライフハッカー日本版編集長の米田智彦さん(41)はデジタルデトックスを求める人が出てきた背景をこう分析する。
IT産業などで働く人の中には、24時間体制でメールやネットに関わる生活をしている人もいる。携帯電話や情報端末機器が普及する中、「過度な情報社会に疲れた人々が『圏外を買う』という時代が来ているのかもしれない」と話している。