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「バター不足」なぜ解消しないのか まるでパズル…難しい需給調整

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

「バター不足」なぜ解消しないのか まるでパズル…難しい需給調整

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バターが消えたスーパーの乳製品売り場 【早坂礼子の経済ウォッチング】

 バターの品薄が続いている。昨年秋ごろから顕在化し、農水省は緊急輸入やメーカーへの増産要請をしたが、年が改まってもスーパーの棚にバターの姿は少なく、不安定な状況はしばらく続く見通しだ。背景にある日本の輸入政策の構造問題について、関係者に取材した。

 不足の元凶は生乳不足

 2月上旬の大手スーパー食品売り場。黄色いバターの箱がまばらに置かれた棚に店からの断り書きが貼られていた。「原材料不足でバターの入荷が未定です。予約販売や取り置きは一切お受けできません」。店員は「メーカーに聞いても、いつになるかわかりませんと言われるんです」とすまなそうに話した。

 数が少ないだけではない。大手メーカーのナショナルブランド(NB)450グラムの値段は、バター不足が表面化する前より明らかに上がっており、比較的安価なプライベートブランド(PB)はバターの箱はひと回り小さくして、容量を減らしている。

 バター不足の原因を農水省は「何よりも原料の生乳の生産量が減ったことです」と説明する。昨夏の猛暑や酪農家の離農で乳牛数が減り、生乳の生産量が減少してバターの生産が減ったという。腐敗しやすい生乳は、先に鮮度が求められる牛乳や生クリームに加工され、保存の効くバターなどは生乳が余れば生産を増やし足りなければ不足する。バターは牛乳・乳製品の“需給調整弁”なのだ。

 “備蓄”が品薄に拍車

 足りないといわれると買ってしまうのが消費者心理だ。農水省の調査によれば昨年11月から12月の小売販売量は前年同月に比べて10~20%増。逆に今年1月以降は前年比1割減に減っている。「お一人様1個限り」という店の販売戦略にあおられて買いだめしたためだ。

 “備蓄”に励んだのは消費者だけではない。バターは酪農家から乳業メーカー、一次卸、二次卸を経て、パンや洋菓子、外食などの業務用や小売店の家庭用へと複雑な流通経路をたどる。国が把握している在庫量は乳業メーカーのもので、バターを扱うそれぞれの業者がどれだけ在庫を持っているかは「聞いても教えてもらえない」(農水省OB)。

 ただ、バターの保管には倉庫や冷蔵用の電気代などがかかり、品薄と聞けば先高感も手伝って在庫量を増やすのが常だ。品不足に業界関係者が踊った結果が、いまのバターの小売価格に反映されている側面もあるようだ。

 もちろん国も手をこまねいていたわけではない。バターは国産だけでなく、国が貿易量を管理する国家貿易品目でもあり、足りない場合は農水相の承認を得て追加輸入ができる。実際、国は今年3月末までに合計1万3000トンの緊急輸入を決定。昨年11月には乳業各社に増産要請もした。

 さらに2015年度は業者の予見性を高めるため、これまで需給への影響を懸念して未公表だった輸入スケジュールを明確化し、「今後は」1月、5月、9月に輸入の判断を行うと発表。25キログラムの業務用(パラバター)だけでなく1~5キログラムの小さいサイズのバター(ポンドバター)も輸入して街の洋菓子店用のバターも確保したいという。

 パズル解読は毎年の課題

 だが、こうした措置で今年4月以降のバターの需給が安定するかは不透明だ。じつはバター不足が問題になったのはここ20年くらいで、過去はバター過剰が問題になっていた。スーパーの店頭では価格の安いバター風味のマーガリンなど代用品も幅を利かせている。品薄や高価格など消費者へのしわ寄せもまずいが、バターを供給できるようになったら肝心の需要が減っていた、では生産者が困る。

 需給に影響を与えないよう生乳の生産量や価格、輸入量などを見通すのは農水省に課せられたパズルだ。同省生産局畜産部牛乳乳製品課の藤岡康恵課長補佐は「余らず不足せず。どこかひとつでもパーツが欠けるとうまく立っていられない」と説明し、同課の林康之課長補佐は「まるでガラス細工です」と表現した。問題はこの需給調整が一般の人にはわかりにくいことだ。

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