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「G2」休刊、岐路に立つノンフィクション ネットとの相性に課題

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「G2」休刊、岐路に立つノンフィクション ネットとの相性に課題

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最終号となった「G2」19号(右)とそれ以前の号。米誌「ニューヨーカー」をイメージし、表紙から文字を消した  ■ネットとの相性に課題…読者との接点を模索

 緻密な取材で事実を深く掘り下げ、社会に問題意識や新たな知見をもたらしてきたノンフィクションが岐路を迎えている。この分野でほぼ唯一の専門誌「G2」(講談社)が5月刊行の第19号を最後に休刊した。インターネットの普及によってメディア環境が変化し、情報との付き合い方が変わりつつある現在、ノンフィクションはどうあるべきか。関係者に聞いた。(戸谷真美)

 「厳しい状況のなかでも、僕らには『良いものを作れば届くだろう』という思いがどこかにあった」。最終号となった「G2」19号で編集人を務めた青木肇さんはこう振り返る。同誌は平成20年に休刊した総合誌「月刊現代」の後継誌として21年に創刊。大御所の立花隆さんや佐野真一さんらはもちろん、若手の古市憲寿さんらも積極的に起用した。だが最近の発行部数は約6千部、実売は3千部程度に落ち込んでいた。

 ノンフィクションの主な発表媒体であり書き手を育成する場でもあった総合月刊誌は「論座」(朝日新聞社)、「諸君!」(文芸春秋)なども20、21年に相次いで休刊。綿密な取材に基づく優れた作品を世に送り出すには時間もコストもかかるが、こうした雑誌が姿を消すなか、近年のノンフィクション賞受賞者は、組織力のある新聞社やテレビ局の記者が目立っている。

 衰退への危機感

 こうした状況に書き手である作家は、危機感を募らせている。「G2」に掲載した「ルポ 外国人『隷属』労働者」で今年の大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞したジャーナリストの安田浩一さんは「ここ15年くらい僕らは書く場所を失い続けてきた。生命維持装置を一つ一つ外されてゆくようなもの。発表の場がなければ書き手は減り、全体の質が低下して衰退する」と打ち明ける。

 また、「G2」の青木さんは「かつては田中角栄氏や小泉純一郎氏など書くだけで読まれる取材対象があり、書き手についても沢木耕太郎さんのようにカリスマ的作家がいたが、今はどちらも生まれにくい」と、厳しい現状を指摘する。

 紙媒体に代わる支え手として期待されるのがネットだ。だが情報消費のスピードが増し、ネットでは時間や労力をかけて取材した記事より、まとめサイトのように手軽に要点を知ることができる記事の方が読まれる傾向にある。「ネットの可能性は否定しないが、ネットメディアの記事の多くは現場に足を運んでこそ書ける身体性が薄く、風景が見えてこない。ただ、今の状況は問題に気づきながら何もできなかった僕らや業界の怠慢でもある。何ができるかを真剣に考えなければならない」と安田さんは言う。

 業界に問題提起

 「冬の時代」と言われて久しいノンフィクション。その新たな可能性を探る動きもある。

 青木さんは「G2」最終号で、デザインも含めて従来の誌面を一新。巻頭には佐藤慶一さんによる寄稿「ノンフィクションを読まない24歳web編集者がノンフィクション・メディアの未来について考えてみた」を掲載し、業界全体に問題提起をした。

 ウェブメディア編集者の佐藤さんはノンフィクション誌を「人通りのないところに構えた高級レストラン」と表現。「これまでのノンフィクション誌は読者との接点づくりという視点が欠けていたのではないか。今はコンテンツそのものより、それに付随するコミュニケーションやコミュニティーに価値を感じる人が多い。そこに再生のヒントがある」と話す。

 ジャーナリストの佐々木俊尚さんは5月、ネットとリアルの双方で活動する有料会員制コミュニティー「LIFE MAKERS」を開設、会員は6月時点で150人を超えた。自身が手がける「今読むべき記事」やインタビューなどを会員限定で公開。交流の場を設け、問題意識を共有する。ノンフィクションが果たしてきた役割を不特定多数ではなく、共通の価値観を持つ特定の読者と一緒に行う試みだ。

 佐々木さんは「若い世代は従来のノンフィクションに切実さや自身との接点を感じられなくなっている。主語がなく客観中立の文体や本だけが絶対的な表現の手段ではない。『ジャーナリズムとは何か』という原点に立ち戻る必要があるのではないか」と訴えている。

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