歩行者との接触時の安全対策も
スバルは歩行者保護のための有効なエアバッグを開発した。車内の乗員を守るだけではなく、歩行者と接触してしまった場合の加害性を抑えるためだ。
衝突の瞬間にボンネットにエアバッグが張り出す。特にフロントガラスの付け根、あるいはフロントガラスの両脇にあるAピラーの付け根からAピラーを隠すようにクッションが張り出すのである。
歩行者と接触してしまった場合の死亡原因としてもっと高いのが頭部への損傷である。それを軽減するために各メーカーは、高い衝撃吸収性がある素材でボンネットを開発している。だが、素材によって衝撃が吸収されても、ボンネットの中に硬いエンジンが収まっている。そのため、歩行者との衝突をセンサーで検知し、瞬時にエンジンフードを跳ね上げることで硬いエンジンとのスペースを確保という技術を採用しているモデルも少なくない。
だが、歩行者の頭部に致命的な損傷を与えるのは、ボンネットよりも、もっとも硬いフロントガラスの付け根、あるいはAピラーであることがデータで得られた。そのための対策が、硬質なポイントを保護するエアバッグの組み込みなのである。
一部の外国車には歩行者の頭部保護用のエアバッグが確認できるが、日本車では初めての機能である。スバルは顧客である乗員だけではなく、歩行者の安全にも強く気を配っているのである。
それにしても社会の高齢化に伴い、安全面での優先課題が変化しているとは気がつかなかった。衝突による死亡事故に関しても、近年特に顕著な自動車の重量増が問題となっている。特にアメリカではライトトラックが増えており、一方で重量のかさむバッテリーを搭載したEVも重量が増えている。安全確保への手法も日々変化していることを知った。
クルマの安全性が飛躍的に高まり、死亡事故数は減少傾向にある。だが、事故の形態は変化している。スバルは近い将来の「死亡事故ゼロ」を目指しているが、そのための対策は複雑で深い。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。