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「プーチン氏にノーベル賞を」の欺瞞

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「プーチン氏にノーベル賞を」の欺瞞

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 【国際情勢分析】

 シリア情勢をめぐり、米国などによる軍事介入が秒読み段階とみられていた9月以降、化学兵器を国際管理するとの「ロシア提案」に沿って急転回した。米国による武力行使の可能性は遠のき、今月(10月)には化学兵器禁止機関(OPCW)がシリアで化学兵器の廃棄作業に着手。米国の機先を制する「外交的勝利」に沸いたロシアでは、今年のノーベル平和賞がウラジーミル・プーチン大統領(61)に授与されるべきだとの声まで出た。

 対シリア問題で「貢献」

 シリア内戦は8月21日、首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用された疑いが浮上し、風雲急を告げた。バラク・オバマ米大統領(52)はこれに先立ち、化学兵器使用を「レッドライン」(越えてはならない一線)と表現し、強い措置を警告していたためだ。ただ、米国の計画した限定的な武力行使には欧州諸国でも支持が広がらず、オバマ政権が米議会の承認を得られるかも微妙な情勢だった。

 ロシアは、このタイミングで動いた。セルゲイ・ラブロフ露外相(63)が9月9日、シリアのバッシャール・アサド政権に化学兵器の国際管理を提案したことを緊急声明で発表し、これを受けてアサド政権が化学兵器禁止条約に加盟することを表明。米露は2014年半ばまでにシリアの化学兵器を全廃するとの枠組みで合意し、これに力を持たせる国連安全保障理事会の決議も採択された。

 この間の流れを表面的にたどると、確かに今回の機敏な動きは久々にプーチン外交の“スマッシュ・ヒット”だったといえるかもしれない。ロシアの一部団体や議員はプーチン氏をノーベル賞委員会に平和賞候補として推薦する書簡を送付し、OPCWへの授与が決まると「プーチン氏こそが受賞すべきだ」との反発が起きた。

 下院議員の一人は露メディアに「(今回の決定は)世界の世論に耳を傾けず、米国一派の意思に従うノーベル賞委員会の、愚かさと無力を示した」と発言。「シリアの化学兵器廃棄に関する仕組みを始動させたのも、アサド大統領に化学兵器禁止条約への加盟を説得したのもプーチン氏だ」と主張した。

 政権派の政治学者は「今年の主要な平和への貢献は、シリア内戦の拡大が食い止められ、化学兵器の廃棄プロセスが始まったことだ。その基本的な功績がプーチン大統領のものであることは疑いない」と語った。

 米国への対抗材料

 しかし、こうした言説は欺瞞(ぎまん)以外の何物でもなく、国際社会はロシア国内の陶酔に惑わされるべきではない。

 第1に、シリアの化学兵器を国際管理する案は、何もロシアの着想によるものではない。12年8月、旧ソ連地域の大量破壊兵器廃棄にも尽力したリチャード・ルーガー米上院議員(81)=当時=が米露による化学兵器管理を提案した際、ロシアはこれをはねつけたという事実がある。ラブロフ外相自身、「国際管理は完全にロシアの発案というわけではない」とし、米露の接触から生まれたものであることを控えめに認めている。

 第2に、「ロシア提案」のまさに直前、米国のジョン・ケリー国務長官(69)は軍事介入回避の条件として、「アサド政権が化学兵器を1週間以内に国際社会に引き渡し、兵器に関する完全な調査を認めること」と発言していた。武力行使の可能性という強い圧力があって初めてロシアは重い腰を上げたというのが実際だろう。

 第3に、化学兵器の廃棄に動き出したことは重要な前進であるものの、これは死者が11万人を超えたとされるシリア内戦を終結させる打開策ではない。アサド政権が当面、化学兵器を使用する可能性は低くなったが、廃棄計画は政権の存続を前提にしたものでもある。和平プロセスが本格的に始動しない限り、政権はロシアから供与された各種の通常兵器で反体制派を攻撃し続けるだろう。

 プーチン政権は、シリアが中東地域での影響力を保つ上で最後の“橋頭堡(きょうとうほ)”だと考え、アサド政権を全力で擁護してきた。国連安保理で対シリア決議案に3度も拒否権を行使したことからも明らかなように、ロシアにとってシリア問題は、米国の“一極支配”に対抗するための好材料ともなっている。プーチン氏が、ノーベル平和賞に値するような高邁(こうまい)な理想に基づいて行動しているわけではない。(モスクワ支局 遠藤良介/SANKEI EXPRESS

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