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【アラスカの大地から】迫る巨体 血の気が引いた

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの科学

【アラスカの大地から】迫る巨体 血の気が引いた

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 危険な目に遭ったことはありませんか-。講演会場などで最も頻繁に聞かれる質問だ。軽い例を1つ。

 大海に浮かぶ木の葉のようなゴムボートで、ザトウクジラの姿を探していた。遠くの点にしか見えなかった黒い塊が、5分後に浮上したときには10メートルにまで近づいていた。

 潮を吹き上げながらこちらに向かって前進する15メートルの巨体。威圧感は潜水艦なみだ。

 そのまま進まれてはボートもろともひっくり返ってしまう。飛び上がるほど冷たい海水は、落ちた人間の命を30分足らずで奪ってしまうほどだ。

 とっさにボートを強く手でたたいた。バンバンという音を響かせ、クジラに気づいてもらうためだ。

 次の瞬間、3メートルにまで迫ったクジラが大きく身をよじり、ボートに触れる寸前で進路を変え、そのまま水中へと消えていった。

 激しい鼓動とは裏腹に、全身の血の気が引いていくのを感じた。

 ≪奇跡のような出合いに感動≫

 危険と隣り合わせの職業だが、それを補って余りある喜びが自然写真家にはある。

 最近の至極の体験をひとつ。季節移動をするカリブーの大群との出合いだ。

 アラスカ最辺境である北極圏のツンドラ地帯。カリブーの大群との遭遇を夢見て、毎年ひとりで成果のない旅を繰り返してきた。四国の4倍の面積を誇る荒野では、宝くじに当たるほどの幸運なくしては、彼らには遭遇できない。

 その大群にようやく巡り合えたのだ。

 キャンプ最終日。迎えの小型飛行機に乗り込み上空から辺りを見下ろしていた。ある大河に目をやった瞬間、息をのんだ。巨大なかぎ爪で大地をひっかいたようなカリブーの足跡が、川沿いに何本も、延々と続いていたのだ。飛行機での追跡が始まった。

 支流が現れるごとに群れは分散し、合流を繰り返す。パイロットと目を凝らしながらその足跡を追う。

 もうすぐだ。湧き上がる期待に1時間があっという間に過ぎたころ、揺れ動く原野が突然目の前に現れた。心の中で歓喜が爆発した。

 数百年にも渡り、人知れず繰り返されてきた季節移動。地球の鼓動を目撃した瞬間だった。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS

 ■まつもと・のりお 写真家。1972年生まれ。愛媛県松山市在住。立命館大中退後、アラスカ大卒。独学で撮影技術やキャンプスキルを学ぶ。年の約半分をアラスカで過ごし、夏は北極圏や無人島、冬は氷河の上のかまくらでひとりで生活しながら、撮影活動に専念する。2004年夏、マッキンリー山登頂。著書に「オーロラの向こうに」「アラスカ無人島だより」(いずれも教育出版株式会社)。日本滞在中は全国の学校や病院などでスライドショー「アラスカ・フォトライブ」を開催。matsumotonorio.com

 【ガイド】

 SANKEI EXPRESSの連載で、アラスカの野生生物の力強い姿や雄大な自然を切り取った作品を掲載する写真家、松本紀生さん(41)が企画写真展「生(ライフ)~写真がとらえる野生」を開催します。2013(平成25)年11月15日(金)~12月4日(水)、東京都港区赤坂9の7の3 フジフイルムスクエア内写真歴史博物館で、午前10時~午後7時(期間中無休、入館は午後6時50分まで)。入場無料です。

 同じように野生生物に魅せられた3人の若手写真家とともに、「生」をテーマに野生生物の逞しい生の営みを切り取った作品を紹介します。

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