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イラン「外交」の成果 米国、威信低下歯止め

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イラン「外交」の成果 米国、威信低下歯止め

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イランの核関連施設=2013年11月24日現在  オバマ米政権はイランの核兵器保有阻止に向け何とか“一里塚”を築き、シリアの化学兵器使用をめぐる対応で国内外に印象付けた威信低下にも一定の歯止めをかけた。だが、イランに譲歩したことには議会が早くも反発している。イランのロウハニ大統領側も就任から約3カ月半で「外交的成果」を挙げたことは政権基盤の強化につながるが、米欧を敵視する国内の強硬保守派の声は無視できない。双方とも、国内に“抵抗勢力”を抱えており、今後の交渉は前途多難だ。

 早くも米議会反発

 オバマ大統領は11月23日夜、合意を受けて声明を発表し、「外交がより安全な世界への新たな道を開いた」と、意義を強調した。合意には、関連施設への厳格な査察も含まれており、米政府高官はイランの核兵器保有阻止が「大きく進歩した」と自賛する。

 オバマ政権は8月、シリア問題で軍事行動を強く示唆しながら、ロシアの仲介で一転してブレーキをかけたことで、外交面での威信の低下を印象づけた。このため、今回の合意で指導力を発揮し、失地回復を狙っていたとの見方もある。

 ただ、イランにウラン濃縮の権利を認めるかどうかを棚上げし、一部のウラン濃縮活動を容認したことで「イランの能力を適切に制限できていない」(共和党のカンター院内総務)との批判が出ている。

 制裁緩和への反発も強い。オバマ政権は、緩和でイランが享受する経済効果は70億ドル(約7000億円)と極めて限定的と主張するが、ルビオ上院議員(共和党)は「議会が追加制裁に動く緊急性が増した」と早くも不快感をあらわにした。

 長年敵対してきたイランが合意を順守するかも不透明で、議会の批判をかわしながら、より包括的な合意にこぎつけられるのか、オバマ外交の真価が今後半年で問われることになる。

 一方、イラン側はウラン濃縮の権利を主張することで面目を保ちつつ、本格的な制裁緩和に一応の道筋をつけた形だ。

 「神の恩寵(おんちょう)と国民の支持が協議の成功につながった」。イランのメディアによると、最高指導者ハメネイ師は24日、こう述べて合意内容を歓迎した。

 ロウハニ師にも難題

 イランに対しては国連安全保障理事会が4度の制裁決議を採択しているほか、米国や欧州連合(EU)が金融や石油産業への制裁を科している。原油輸出は現在、2012年初めの半分以下に低下、この期間の損失額は800億ドル(約8兆円)超とされる。通貨下落に伴うインフレも深刻だ。

 こうした状況が、今年6月の大統領選で、制裁緩和の実現を掲げる穏健保守派のロウハニ師の当選につながった面は大きい。米国を「敵」とみるハメネイ師が、核交渉ではロウハニ師の対話路線を支持した理由もここにある。

 強硬保守派が多数派の議会も、世論の後押しを受けるロウハニ政権の外交政策を見守る姿勢をおおむね維持。ラリジャニ議長は今月(11月)上旬、日本の岸田文雄外相との会談で政権を支える考えを繰り返し強調した。

 一方で、核エネルギーの自給自足体制は大国を自任するイランの宿願だ。一部核施設への日常的な査察受け入れなど、合意で義務づけられた項目に反発が出る可能性があるほか、今後の交渉で制裁緩和を急いで安易な譲歩をすれば、議会から「弱腰」との批判が出るのは避けられない。(ワシントン 小雲規生、カイロ 大内清/SANKEI EXPRESS

 ≪「歴史的な過ち」 イスラエル首相が猛反発≫

 核合意について、イランと敵対するイスラエルのネタニヤフ首相は11月24日、首相府を通じた声明で「イランの望むものを与える悪い取引だ」と痛烈に批判。今後、武力行使も辞さない強硬姿勢を一層強めるのは必至だ。

 イランが核兵器を製造できる段階に近づいているとみるネタニヤフ氏は、この日で閣議でイランへの譲歩は「歴史的な過ちだ」と、改めて主張した。今回の核協議については、直前にフランスのオランド大統領やロシアのプーチン大統領と相次いで会談し、制裁緩和には一切応じないよう働きかけてきた。

 それだけに、イランと6カ国が合意に漕ぎ着けたことへのイスラエルの失望と反発は大きい。リーベルマン外相は24日、合意は「ウラン濃縮の権利を勝ち取ったイランの外交的勝利」だと論評した上で、「あらゆる選択肢を排除はしない」と述べて武力行使の可能性を改めて示唆した。

 一方、米国の重要同盟国であるサウジアラビアも、イランのロウハニ政権発足以降、米国が対イラン融和に傾いていることを警戒。今月(11月)上旬には英BBC放送で、イランへの対抗策としてサウジが核武装を検討していると報じられるなど、サウジの安全保障政策の変化も取り沙汰されている。サウジが今回の合意に反発するのは間違いなく、今後の交渉に影響を与える可能性もある。(カイロ 大内清/SANKEI EXPRESS

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