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生きづらい女性たちの生と性 リアルに 「愛を振り込む」作家 蛭田亜紗子さん

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生きづらい女性たちの生と性 リアルに 「愛を振り込む」作家 蛭田亜紗子さん

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 【本の話をしよう】

 竹中直人によって映画化されたデビュー作『自縄自縛の私』などで注目を集める気鋭の作家、蛭田亜紗子さん(34)が、連作短編集『愛を振り込む』を刊行した。1枚の千円札がつなぐ6人の女性の生と性を、赤裸々にあぶり出す。

 他者の評価でしか物事の価値をつかめずに、他人の夫を誘惑するOL(「となりの芝生はピンク」)。鬱屈した思いをはらすかのように、スーパーのさえない店員宛ての苦情を書き続ける専業主婦(「お客さまの声はこちらまで」)、引退を決めて故郷に帰った売れないタレント(「月下美人と斑入りのポトス」)…。

 光が差す瞬間を

 登場する女性たちはみな、他人には打ち明けることのできない悩みや憎しみ、欲望を抱えている。そんな彼女たちの負の感情を、息苦しいほどに濃密に描き出す。「読み終えてぐったりしてしまう話もあるかも(笑)。今って、答えが簡単に見つかる時代ではない。5年後自分がどうなっているかなんて、誰にも分からない。みんな何かしら生きづらさを抱えている。そういった女性たちが、ふとしたきっかけで浮力を得て、上がっていける。そんな、ちょっとだけ光が差す瞬間を描きたかった」

 職業も生き方も違う女性たちだが、彼女たちが抱く人生への不安や悩みは、誰しもが思い当たる内容だ。「リアリティーはすごく大事にしています。どこかに存在していそうな、読んでドキッとするような内容になったと思います」

 6人をつなぐのは、朱肉で汚れた1枚の千円札。愛と性とお金に翻弄される女性の間を、ゆらゆらと旅していく。「お金って人から人へと巡っていくけれど、普段は前の持ち主がどんな人だったかなんて気にしない。でも、たまにメモとかが書いてあるお札があって、気になったりする。お金って日常とは切り離せない存在だし、登場人物たちをつなぐツールとして面白いな、と」

 答えは1つじゃない

 女性の性をテーマにした「R-18文学賞」大賞を受賞し、デビューした。リアルで、どこかしら切なさを感じさせる官能描写が魅力の一つだ。「女性にとって、性は切り離すことができないもの。生理が来たり、出産や更年期など、自分たちの人生に向こうから勝手に関わってくる。性は生の一部。だからこそ、官能描写だけが浮かないように、自然な流れの中で描くことを心がけています」

 登場人物たちはもがき、沈み、けれど、自分自身で答えをつかみ、再び浮上していく。「自分で納得しないかぎり、前に進むことはできない。自分の気持ちを支配するのは、自分なんです。悩んでいると視野が狭まってしまうけれど、1つの型に自分を押し込める必要なんてない。答えや選択肢は1つじゃないということを伝えたいですね」

 自身も、20~30代の登場人物たちと同世代。「順調な人間なんて、一人もいないはず。これを読んで、ちょっとだけでも気持ちを軽くしてもらえればうれしいです」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■ひるた・あさこ 1979年、北海道生まれ。広告会社勤務を経て、2008年「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。改題した受賞作を含む短編小説集『自縄自縛の私』でデビュー。この作品は今年2月、竹中直人監督で映画化された。ほかの作品に『星とモノサシ』『人肌ショコラリキュール』。札幌市在住。

「愛を振り込む」(蛭田亜紗子著/幻冬舎、1365円)

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