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恩赦でも取り繕えぬ「重い代償」 

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恩赦でも取り繕えぬ「重い代償」 

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2014年ソチ冬季五輪会場=2014年2月7日~2月23日(開催期間)、ロシア・ソチ  【国際情勢分析】

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)が、国内外で「政治犯の象徴」とみなされていた元石油王、ミハイル・ホドルコフスキー氏(50)を恩赦で釈放した。来年2月のソチ冬季五輪を前に、人権問題をめぐる諸外国の批判をかわす狙いがあった。だが、10年前にホドルコフスキー氏が拘束されたこの事件は、一政敵に対する恩赦では取り繕えぬ重い代償をこの国に払わせたといえる。

 対外関係の足かせ排除

 ホドルコフスキー氏は石油最大手「ユコス」(当時)の社長だった2003年10月に拘束され、後に脱税罪などで禁錮8年の実刑判決が確定。10年末には類似の罪状で刑期が上積みされ、来年8月に出所の予定となっていた。国内随一の富豪で、反政権派に積極的に資金援助をしていたため、事件はプーチン政権による「政敵排除」として欧米諸国から猛批判されてきた経緯がある。

 プーチン氏は12月20日、ホドルコフスキー氏から提出された嘆願書に基づき、「人道上の原則」に従うとして恩赦の大統領令に署名。ホドルコフスキー氏は22日、釈放後に向かったドイツ・ベルリンで記者会見し、ロシアの政治犯釈放に全力を尽くすとする一方、政治活動やビジネスには携わらない考えを示した。

 ホドルコフスキー氏はそれまで、自らの罪を認めることにつながるとし、一貫して恩赦の嘆願を拒んでいた。母親の病状が芳しくない中、最近は再々起訴されるとの情報が捜査当局からリークされていたため、今回の恩赦嘆願から釈放に至る流れは政権側が主導したとみられている。

 プーチン氏が恩赦に踏み切った最大の理由として、米仏独など主要国の首脳がソチ五輪開会式への欠席を相次いで表明したことが指摘されている。同性愛宣伝禁止法の施行などロシアの人権状況に対する抗議の意図があると解釈されており、プーチン政権が威信をかける初の冬季五輪開催に水を差す事態だ。

 ロシアは来年6月、主要国(G8)首脳会議をやはりソチで主催することにもなっており、対外関係の足かせは取っておくのが得策だった。「ホドルコフスキー氏を釈放しても脅威にはならず、逆に政権の余裕を演出できると考えた」(政治学者)との見方もある。

 ホドルコフスキー氏によれば、大統領への恩赦嘆願で罪の認否は問題とされなかった。また、釈放については、ドイツのアンゲラ・メルケル政権の後押しも受けたハンス・ディートリッヒ・ゲンシャー元外相(86)が、約1年半前からロシアに働きかけていたという。

 専横・汚職で経済停滞

 ホドルコフスキー氏はソ連崩壊後の1990年代、国家資産の民営化に乗じて富を築いた「オリガルヒ(新興寡占資本家)」の代表格。金融業で得た資金を元手にユコスを獲得し、欧米の技術を積極的に導入して国内最大手に育てた。拘束後、ユコス資産の大部分は国営ロスネフチの手に渡っており、事件は経済の面でもプーチン政権が国家統制を推し進める分水嶺(ぶんすいれい)になったとされている。

 ロシアでは10年前の事件を契機にシロビキ(治安・特務機関の出身者など武闘派)が力を持つ「開発独裁型」の体制が確立し、プーチン氏の前回大統領時代にあたる2000~08年春まで国内総生産(GDP)が年平均で約7%の伸びを見せた。

 ただ、今年の成長率予測が1.4%にとどまるなど、最近は経済の減速が鮮明になっている。シロビキの専横や役人の汚職がはびこってビジネス環境が悪化し、天然地下資源に依存する経済構造から脱却できていないことが根底にある。

 このため、プーチン政権にはホドルコフスキー氏の釈放で、投資環境の改善を印象づける思惑があったともされている。しかし、ホドルコフスキー氏が「政治犯は私だけではない」と力説しているように、今回の釈放でプーチン政権の強権的体質が変わるわけではない。経済停滞の原因を除去するには、独立した司法など、プーチン政権が骨抜きにしてきた民主主義の基本的な仕組みを整備することが不可欠だ。

 今回の釈放劇が映すのはむしろ、ユコス事件の重い代償に足をとられ、苦しんでいる政権の姿なのではないか。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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