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露とEUのウクライナ綱引き延長戦へ

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露とEUのウクライナ綱引き延長戦へ

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ウクライナ・首都キエフ  【国際情勢分析】

 旧ソ連のウクライナが今月、欧州連合(EU)加盟に向けた大きな一歩となる連合協定(AA)の締結を直前になって取りやめた。ロシアが自国陣営にウクライナを取り込もうと圧力を強めていた経緯があり、経済的苦境にあるウクライナは当面、ロシアとの関係を重視することが得策と判断した。だが、「東か西か」で揺れたウクライナの帰趨(きすう)が、これで決まったわけではなさそうだ。

 経済逼迫で「東」向き

 ウクライナは今月(11月)28、29日にリトアニアで開催されるEUと旧ソ連諸国との東方パートナーシップ首脳会合で、自由貿易協定(FTA)を柱とするAAへの調印を目指していた。人口4500万人を擁する旧ソ連第2の大国ウクライナとEUの相互市場開放は、双方にとって魅力的だと考えられてきた。

 しかし、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権は11月21日になって突然、AA締結に向けた作業を停止し、ロシアとの経済関係を発展させる方策をとると発表した。EUのヘルマン・ファンロンパイ大統領(66)と欧州委員会のジョゼ・バローゾ委員長(57)は25日、ロシアがウクライナに圧力をかけていたことを踏まえ、「ロシアの立場と行動は全く容認できない」と共同声明で非難した。

 通算3期目のロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)は、旧ソ連諸国の経済統合を重点課題に掲げている。ロシアがベラルーシ、カザフスタンとともに形成している「関税同盟」を拡大し、15年にも共通の経済・通貨政策を伴う「ユーラシア連合」を発足させたい考えだ。

 だが、歴史的・民族的につながりの深い大国、ウクライナが加わらないと、プーチン氏の構想は大きな打撃を受ける。ロシアは、ウクライナがAAに調印した場合には、ウクライナ産品の輸入に「保護措置」をとると警告。一方、関税同盟に加わればロシア産天然ガスの供給価格を大幅に引き下げると提示し、“勧誘”に躍起だった。

 ウクライナの経済は今年1~9月の国内総生産(GDP)が前年同期比1.3%減となるなど低迷し、財政と貿易の赤字に悩む。外貨準備高は輸入額の3カ月分を切る危険水域だ。ロシアからの天然ガス輸入額がかさむ一方、国内のエネルギー価格を政府補助で抑えている構造が根底にある。

 ロイター通信によると、ウクライナが来年、天然ガス輸入や債務返済のために新規確保する必要のある財源は170億ドル(約1兆7200億円)超。政権は国際通貨基金(IMF)に融資再開を要請しているが、IMFは財政緊縮など「痛み」を伴う改革を引き換えに求めており、交渉妥結のめどは立っていない。

 政権が「東」を向いたのは、輸出の4分の1を占めるロシア市場からの“締め出し”が脅威であり、ロシア産天然ガス価格引き下げの提案が媚薬として効いたからにほかならない。

 AA見送りは一時的戦略

 EUが、ヤヌコビッチ大統領(63)の政敵、ティモシェンコ前首相(53)=服役中=の釈放を、AA締結の前提条件として要求していたことも大きい。15年の大統領選で再選を狙うヤヌコビッチ氏は、ティモシェンコ氏の政界復帰を恐れて釈放に踏み切れなかった。

 ウクライナの離脱によって、近くEUとのAAを締結する可能性がある旧ソ連構成国はグルジアとモルドバだけとなり、露指導層からは安堵(あんど)の声が出た。

 ただ、ウクライナのニコライ・アザロフ首相(65)はAA締結の見送りについて、「もっぱら経済的理由による戦術的な決定だ」と説明している。露経済紙のベドモスチは「プーチン氏の勝利は一時的なもので、ウクライナは関税同盟に入らず、欧州統合路線を諦めることもないだろう」とする露識者のコメントを伝えた。

 元来、ウクライナは親欧米的な西部と親露的な東部・南部に国土と住民が二分され、急激に国のかじを切るのが難しい。首都キエフで24日、AA締結作業の中断を受け、親欧米派が数万人規模の抗議デモを行ったのはその表れだ。ウクライナをめぐるロシアとEUの綱引きは“延長戦”に突入し、ヤヌコビッチ政権は両者の間をしたたかに泳いで利益の最大化を図る-というのが有力な見方だ。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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