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天安門テロ 騒乱拡大の2つのシナリオ

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天安門テロ 騒乱拡大の2つのシナリオ

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 【佐藤優の地球を斬る】

 中国が深刻な民族問題に直面している。10月28日正午(日本時間午後1時)、北京市の中心部、天安門前で四輪駆動車が群衆に突っ込んだ後、炎上した。車に乗っていた3人と、群衆の中にいたフィリピン女性1人、中国広東省からの男性観光客1人の計5人が死亡し、日本人男性1人を含む38人が負傷した。中国当局は、本件をテロ事件と断定した。

 少数民族政策の破綻

 <中国国営新華社通信によると、北京市公安当局は30日、北京中心部の天安門前で起きた車両突入事件を「テロ事件」と断定し、ウイグル族の容疑者5人を拘束した。中国中央テレビ(英語版)は、天安門に突入、炎上した車両の中から、ガソリン容器や鉄の棒、宗教的スローガンが記された旗が見つかったと伝えた。拘束された容疑者の氏名や性別などは不明だが、公安当局が同日までに、写真付きで手配書を配布した8人の容疑者の一部とみられる。炎上した車に乗っていた実行犯は、

ウイグル族の「ウスメン・ハサン」とその妻、母親と断定された。同市公安局報道官は、3人が衝突後、自らガソリンに火をつけて自殺したと説明している>(10月30日のMSN産経ニュース)

 中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区では、今年4~6月にかけて警官隊とウイグル人グループが衝突する事態が相次いだ。習近平政権は、武装警官を多数投入してデモ隊に発砲し、ウイグル人の「異議申し立て運動」を鎮圧した。産経新聞北京支局の矢板明夫記者は、<香港の人権団体によると、今回の突入事件の死者の一人は、新疆ウイグル自治区ルクチンで6月に発生した暴動の際に、警察に射殺されたウイグル族の遺族だという。報復する目的で「自爆テロ」を仕掛けたことが確認されれば、習氏の少数民族政策の「失敗」が証明され、批判の声が再び高まることも考えられる>(10月30日、MSN産経ニュース)との見方を示す。筆者も習政権の少数民族政策は破綻しているとみている。

 国家建設、過激派と連携…

 ウイグル人は、ウイグル民族であると同時に、ムスリム(イスラーム教徒)であるという複合アイデンティティーを持っている。中国当局に対して異議申し立てを行うウイグル人の間で、民族と宗教のいずれのアイデンティティーが強くなるかによって、今後のシナリオが異なってくる。

 ウイグル民族という自己意識が強くなる場合には、カザフスタン、キルギス共和国のウイグル人と連携して「ウイグルスタン(ウイグル人国家)」の建設に向けた動きが始まるかもしれない。特にキルギスは事実上、国家破綻状態にあるので、国境管理が十分できてない。新疆ウイグル自治区にとどまらず、中央アジアを巻き込んだ混乱が起きる可能性がある。ウイグル民族は、チュルク(トルコ)系なので、トルコ-アゼルバイジャン-トルクメニスタン-ウズベキスタン-カザフスタン-キルギス-新疆ウイグルをつなぐ、「汎チュルク主義」を刺激する可能性もある。

 ウイグル人が持つイスラーム意識が強まる場合、これが中東の国際テロ組織アルカーイダやアフガニスタンのタリバーンに連なる原理主義過激派と結びつく危険がある。既にウイグル人の過激派が国際的に暗躍している。過去にロシアのチェチェン共和国でイスラム原理主義過激派に加わっていたウイグル人が拘束され、中国に強制送還されたことがある。さらに原理主義過激派の影響が、中国国内の回族(漢人のムスリム)に及ぶ可能性もある。

 いずれにせよ、ウイグル民族問題が先鋭化することによって、中国国内にとどまらず、中央アジア、北カフカス、中東など、広範な地域でテロや騒乱を誘発する危険がある。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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