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伝えることが私の使命 佐藤真海

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伝えることが私の使命 佐藤真海

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 【パラリンピアン・ライフ】

 競技がオフシーズンに入った秋以降も、年末まで忙しい日々が続きますが、小学校での講演など子供たちとの交流を最優先にスケジュールを組んでいます。私にとって、活動の原点だと思っているからです。

 子供たちを前にしたとき、いつも願っていることがあります。「限界ラインを作らず、あきらめることなく、チャレンジをしてほしい」ということです。今の私が、子供のときの自分に、ぜひとも伝えたかったメッセージでもあります。

 宮城県気仙沼市で生まれ育った私は、自然あふれる故郷が大好きな半面、東京や仙台といった都会を遠く感じながらも憧れを持ち続けていました。未知の世界に一人で踏み出すには、勇気が必要でした。

 陸上も勉強もと、「文武両道」を目指してがむしゃらに頑張っていたのですが、心のどこかで「もっと大きな世界では、自分のやっていることはちっぽけなことなのではないか」という不安がありました。壁にぶち当たったとき、「やっぱり自分には力がないんだ」と限界を感じてしまうこともありました。

 高校卒業後、東京の大学に進学し、闘病生活に打ち勝ち、社会人となってパラリンピックにも出場できるようになって視野はどんどん広がっていきました。

 そして、今年は2020年東京五輪・パラリンピック招致にも携わることができました。「乗り越えた壁の向こうには、自分をもっと成長させてくれる世界があった」。遠くに感じた仙台で、そして東京で、さらにグローバルに活動できるようになって、そのことに気付くことができました。必要なのは、ほんの少しの勇気なのです。

 私の経験を話すことで、少しでも子供たちの未来に役立ってほしいと願っています。

 故郷・東北のために

 もう一つの大切な存在が、故郷です。東京での多忙な日々の合間を縫い、11月3日に行われた「ツール・ド・東北」にアンバサダーとして参加して現地の人たちと触れ合ったり、プロ野球の楽天の日本一を見届けたり、宮城県の村井嘉浩知事と対談したりする機会に恵まれました。

 東北が東日本大震災からの復興へ向かっていく中で、私はできる限りの発信をしていきたいと思っています。できることは微々たるものかもしれませんが、立場を与えられたという使命もあります。

 「真海(まみ)はおれたちの代弁者だからね」。故郷に戻ったとき、中学時代の恩師からこう言われました。同級生からは「俺たちの誇り。頑張って」とうれしい言葉をもらいました。すごくうれしいと同時に、もっともっと故郷のために頑張らないと、という思いが強くなります。

 このコラムもそうですし、一気に増えた取材やテレビ、ラジオの出演、全国各地での講演活動…。健常者と障害者をつなごうとしてきたように、東北の現在を、もっと多くの人たちに知ってもらうための役割を果たしたいと思っています。

 「思いやり」の成熟を

 先日、ある取材で「2020年」について聞かれました。招致活動に携わり、五輪・パラリンピックが東京に来るまさにその年、どんな社会になっているのか-。私は「思いやりのあるやさしい社会」を願っていると答えました。

 流行語大賞にも選ばれた滝川クリステルさんが言った「お・も・て・な・し」の趣旨とは何なのかと考えたとき、障害者や高齢者、外国人、子育て世代に対しての思いやりの成熟こそが、20年の日本に求められている気がします。そうなれば五輪だけでなく、パラリンピックへの認知度も高まるでしょうし、復興への思いも強くなると思います。

 そのためにヒントになるのは、昨夏のパラリンピック・ロンドン大会の大成功だと思います。スポーツ・バーで車いすバスケットボールの試合が中継されていたことに感動したロンドンの街では、メディアやスポンサー企業が一体となってパラリンピックを盛り上げ、市民が刺激を受ける様子が伝わってきました。つまり、横のつながりの大切さです。スポーツ界だけでは、どんなに頑張ってもあそこまで大きなムーブメントにはできなかったでしょう。

 来年2月には、ソチで冬季五輪・パラリンピックが、そして3年後にはリオデジャネイロで夏季五輪・パラリンピックが開催されます。パラリンピックの注目度が高まるタイミングで、何を伝えていけるか。今から頭の中で考えを巡らせています。

 招致活動でのスピーチをきっかけに、私がこれまで訴えてきたことに、より多くの人たちが耳を傾けてくれるようになりました。仲間が増え、強いネットワークも生まれました。この機会を生かすことが、私自身に与えられた大きな課題だとも思っています。

 独学で取り組んできたスピーチも、高円宮妃久子(たかまどのみやひひさこ)さまにお会いしたときに「滑舌がいいし、声も通る。これからも頑張って」と、ほめていただきました。

 私にとって「スピーチの神様」でもある久子さまから、そんなふうに言ってもらって、本当にうれしく励みにもなりました。

 幸いにも、気を張り続けているからか、最近は全く風邪をひきません。毎日のように続く分刻みのスケジュールをこなすのに精いっぱいでもありますが、そんなときは、1日30分でもいいから競技の練習時間を確保できるように努めています。この時間が本当に楽しく、やっぱりスポーツに支えられているんだと実感しています。(女子走り幅跳び選手 佐藤真海/SANKEI EXPRESS

 ■さとう・まみ 1982年3月12日、宮城県気仙沼市生まれ。早大時代に骨肉腫を発症し、20歳のときに右足膝下を切断して義足生活に。大学3年だった2003年1月から高校時代以来の陸上競技を再開。女子走り幅跳びで04年アテネ大会から12年ロンドン大会まで3大会連続でパラリンピックに出場。今春にマークした5メートル02センチは義足選手の日本記録。サントリーに勤務する傍ら講演などでパラリンピックの普及・啓発にも取り組む。

日本記者クラブチャンネル http://WWW.jnpc.or.jp/

会見動画「佐藤真海 パラリンピック女子陸上選手」 (会見日:2013年10月29日)

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