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中国宅配業界が抱える問題点 有毒化学品で死亡事件、乱暴な積み卸し
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中国の主要都市
中国で郵便事業を統括する国家郵政局は12月22日、各地方の支部に配達業務の手順のチェックを強化するよう緊急通達を出した。発端となったのは、11月下旬に山東省で有毒化学品が付着した宅配便の荷物によって起きた死亡事件。インターネット通販の普及によって、急激に拡大している中国の宅配便業界の問題点が浮き彫りになっている。
中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報などによると、山東省東営市の主婦がインターネット通販で購入した子供靴が11月29日、宅配業者によって届けられた。
主婦の夫、劉興亮さんが商品が入っていた黒いビニールを開けたところ、異臭がし、箱や商品のピンク色の靴には黒い汚れが付着していたという。劉さんはその後、「気分が優れない」などと身体の不調を訴え、病院で治療を受けたが、集中治療室に入った10分後に死亡した。
その後の調べで、劉さんの死因は箱などに染み込んでいた有毒化学品のフルオロ酢酸メチルであることが判明した。その有毒化学品は湖北省の化学薬品会社「湖北荊門熊興化工」が配達を依頼していたもの。山東省灘坊の倉庫で貨物トラックから荷物を下ろす作業をしていた時に漏れ出し、複数の荷物に付着したらしい。
死亡した男性のほか、配達員5人が、事故から48時間以内に頭痛や吐き気、呼吸困難などの症状を訴えた。別の顧客2人も、体調を崩していたことが明らかになった。
問題の有毒化学品は、国家郵政局が「輸送禁止物品指導目録及び処理規則」で輸送禁止物品に指定しているが、化学薬品会社は配達を依頼した際、「無毒・無害」と申告していた。そのため、有毒化学品が入った容器を簡易包装で発送したという。
警察当局は21日、化学薬品会社の副工場長を逮捕。宅配会社の従業員1人と、有毒化学品の受け取り先だった製薬会社関係者1人も、すでに拘束されているという。
国家郵政局は、輸送が禁止されている物品が配達されないよう、監視カメラの映像などで配達員が荷物の出所などをしっかり確認するよう新たな規定を発布。違反した場合には、営業停止や事業免許の剥奪(はくだつ)などの厳しい処罰を下すとしている。
今回の事件に関与した化学薬品会社や、これまでこの会社の有毒化学品を3回配達した宅配業者は、営業停止を命じられている。宅配業者は2万8000元(約48万円)の罰金の支払いも命じられた。
しかし、今回の新たな規定が確かな効果を上げられるかは未知数だ。環球時報によると、中国では現在、約2億人のインターネット利用者が、恒常的にインターネット通販を利用。国家郵政局の統計では、中国国内の宅配件数は今年1~11月、約81億件に急増した。前年同期比では61.4%の増加という。
近年、中国の宅配業界は急激に拡大しており、従業員の管理、指導が徹底されているとは言い難いようだ。依頼された荷物をすべてチェックし切れるか疑問視する声も挙がっている。また、宅配業界関係者は中国紙、新京報に対し、「乱暴な荷物の積み卸しが、最もよく見られる破損の原因になっている」と指摘している。
事実、北京市内でも道路脇で荷物の集荷や配達作業をする姿をしばしば見かける配達員は、「割れ物」か否かなど荷物の中身を確認することなく、路上に放り投げていることも多い。
このような状態だから、配達されたガラス製品やプラスチック製品が破損しているケースは珍しくない。すでに今年3月に、乱暴な積み卸しを禁止する「宅配便市場管理規則」が発布されているにもかかわらずだ。
中国では今後もインターネット通販の利用者の増加とともに、宅配サービスの需要も拡大するとみられる。
しかし、北京に事務所を置く日本の大手宅配業者関係者は「出す人がウソをいってしまえば日本でも起きうる事件だ」とした上で、「宅配業をサービス業と思っていない従業員が多すぎる」と、中国の宅配業界が抱える問題点を指摘した。(中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS)