SankeiBiz for mobile

【逍遥の児】寒百日の大荒行

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

【逍遥の児】寒百日の大荒行

更新

 新春の陽光。澄み切った青空が広がる。法華経寺(千葉県市川市中山)。朱色の五重塔がすっくと建つ。見事だ。わたしは境内の奥へと進んでいった。目指す日蓮宗大荒行堂に着いた。

 壁越しに読経する声が響いてくる。俗世と隔たれた壁の向こう。姿は見えないが、修行僧たちが伝統の寒百日大荒行に取り組んでいるのだ。

 「行堂清規」が掲げられている。修行僧たちが守るべき規範である。主なものを記す。

 ──在行中はすべて伝師の命に服従すべし。日課の読経並びに水行など怠ることを許さず。飲酒喫煙することを許さず。不浄食を許さず。寂黙を守る。清規を乱す者は直ちに退堂を命ずる。

 水行とは、寒中、冷水を浴びて身を清める行だ。午前3時、6時、9時、正午、午後3時、6時、午後11時-の1日7回と厳格に定められている。よって睡眠時間はわずかしかない。食事は1日2回。白粥が主という。

 大荒行堂の壁。修行僧の名前と寺、地域が黒々と記されていた。首都圏や青森県、長崎県…。全国から集まっていることがわかる。名前をひとりずつ追っていった。驚いた。わたしと縁のある若い僧の名があるではないか。

 ──そうか。彼もまた、修行しているのか。

 感慨深いものがあった。

 修行僧たちは昨年(2013年)11月1日、入行した。わたしはその日、取材した。覚悟を示す白装束をまとった僧たちが廊下を渡って祖師堂に入っていく。頭は青々と剃られている。全員そろった。正座して大音声で読経する。入行の儀式。修行僧を導く老僧がいった。

 「102人の命、伝師としてお預かりする」

 僧たちは命がけで修行し、心身を錬磨するのだ。厳粛な気持ちになった。

 入行から幾十日が経った。定められた面会日に家族らと会えるようになった。面会所には「手荷物の受け渡しは厳禁」と記してあった。面会所の奥。修行僧が垣間見えた。黒い髪が伸び、髭はぼうぼうだった。苦行がしのばれる。修行僧たちは2月10日、満行の日を迎える。どんな姿で現れるのか。その朝もまた、訪れよう。(塩塚保/SANKEI EXPRESS

 ■逍遥 気ままにあちこち歩き回ること。

ランキング