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新春インタビュー 映画監督 河瀬直美さん(1) 日本古来の豊かさを学びたい

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新春インタビュー 映画監督 河瀬直美さん(1) 日本古来の豊かさを学びたい

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奄美大島の人々が「2つの海が見える場所」と呼ぶ高台から望む東シナ海(左)と太平洋(右)。2つの海は徒歩で10分もかからない距離にある=鹿児島県大島郡龍郷町(別府亮さん撮影)  故郷の奈良県を拠点に、日本人が太古から尊重してきた伝統文化を後世に伝え、人類普遍の大切な価値として世界の人々にもメッセージを送ってきた映画監督の河瀬直美さん(44)。夏に公開される新作「2つ目の窓」では、奈良県を飛び出し、はるか南方にある鹿児島県の奄美大島を舞台に選んだ。大自然とともに生きる島の人々との触れ合いを通して、気がついたことは何だろう-。

 私は先人たちが残した日本の伝統文化を大切にしようとの思いを胸に、生まれ育った奈良県を拠点に映画を作ってきたんですが、8年前に私のルーツが奄美大島にもあることを初めて知りました。母方の祖母が奄美大島の北部にある笠利(かさり)地区の出身だったのです。私は奄美大島を意識するようになりました。初めて訪れたのは、皆既日食の前年だった2008年のことですね。奄美大島に暮らす人々のおおらかさに私は魅せられて、この土地を舞台にした映画も撮ってみたいなあと考えました。タイトルは「2つ目の窓」としました。

 初めて訪れたとき、私はカメラを持って笠利地区の集落を訪ね、「自分のおばあちゃんが生きた場所はどんなところなのだろう」と探していました。私が手にしていた祖母の家の番地と現在の番地は違っていて、さまよい歩いていたんです。すると後ろから現地に住むおじさんが「何しているの?」と声をかけてきました。事情を話したところ、その人は実は祖母の親戚だったんですね。その日のやり取りはそれで終わり、私は1泊だけして奈良に帰りました。しばらくして2回目に訪れたとき、そのおじさんに会ったら「お帰り」と言ってくれたんです。

 私は初めて訪れた人なのに、奄美大島の人たちは来る人を拒まない。歴史や風土がそうさせているのかもしれません。私は(父母と離別し、母のおば夫婦に育てられた)自分の生い立ちからしても、自分より上の親世代とは血はつながっていても、精神的な一体感という意味で、どこかつながっていないような感じを抱きながら育ってきました。だから、奄美大島で出会ったおじさんが親戚とはいえ、全然知りもしない私に「お帰り」と言ってくれたことがすごくうれしくて。

 こういう人たちの文化はどう培われてきたのだろうか。笠利地区の行事にはどんなものがあるのかを聞いていくと、「八月踊り」とか、「種下ろし」とか、集落でつながっていくものがいっぱいあって、本土が失いかけているものなんだなあと感じました。

 本土の人々は、効率性を重んじる経済優先の社会の中ですごくスマートに生きているようではあるんだけれど、心の中はすごく寂しくて、祭りごともどんどんなくなっていく感じ。私は奄美大島に学ぶというか、自分がライフワークとしてきた古来の日本の豊かさに学んでいきたいなという思いで、映画の撮影を決断しました。

(取材・構成:高橋天地(たかくに)、津川綾子/撮影:写真家 別府亮/SANKEI EXPRESS

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