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【エディターズEye】日本人の生命力

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【エディターズEye】日本人の生命力

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奄美大島の人々が「2つの海が見える場所」と呼ぶ高台から望む東シナ海(左)と太平洋(右)。2つの海は徒歩で10分もかからない距離にある=鹿児島県大島郡龍郷町(別府亮さん撮影)  新しい年を迎えた。日本経済はデフレ脱却の兆しが見えたが、多くの人がまだ景気回復を実感できていない。東シナ海では隣国との緊張が高まっている。心配ごとには、きりがない。そんな年明けに、さまざまな試練の中で生きぬいてきた日本人の豊かさや生命力を確かめたいと考え、奄美大島を舞台に2人のアーティストを取材した。

 奄美大島で生まれ育った歌手の元(はじめ)ちとせさん(34)は、第2子となる長男(4)の妊娠を機会に東京暮らしを切り上げ、島に戻った。

 「(子供のころは)かわいがって飼っていたヤギを捌(さば)いていただくことも、しょっちゅうでした。子供ながらに、命をいただくということはとても大切なことだとわかりました」

 都会に暮らす私たちが、元さんがさらりと口にした命の重みと力強さを理解するには相当な想像力が必要だ。

 国際舞台で活躍する映画監督、河瀬直美さん(44)は祖母のルーツをたどって奄美大島を訪れ、その暮らしに受け継がれる日本古来の豊かさに感銘して映画制作を決めた。その物語では台風の猛威が重要な役割を担う。

 「種を植えて芽が出ても、実り多き収穫の時期に全部台風に持っていかれ、壊滅的な打撃を受ける可能性もある。それでも、めげずに春には種を植えていく。簡単にはあきらめないという強い精神世界を肌で感じました」

 そんな美しくも猛々(たけだけ)しい自然との対峙(たいじ)は、3回目の新年を迎えた東日本大震災の被災地にも重なる。昨年(2013年)7月、宮城県女川町では津波に襲われた中心部約38ヘクタールに最高約17メートルの高さで盛り土を行う工事にとりかかった(2013年7月13日付SANKEI EXPRESS)。岩手県宮古市田老地区のスーパー堤防が崩壊したように、「絶対安全」という神話はもはやない。それでも、逃げ出すこともなく、大規模な造成工事に再起を懸けるのは、どんなに大変なことがあってもその土地で次の世代を育て、生きぬいていくと覚悟したからに違いない。

 便利で安全な都会で暮らしているとうっかり忘れてしまいそうだが、奄美大島でも三陸沿岸でも、日本人は時代の変化や自然災害に向き合いながら、ごく当たり前に古来の豊かさを受け継ぎ、力強く生命力を育んできた。この一年、生きぬいていくヒントになれば幸いだ。(SANKEI EXPRESS編集長 佐野領/SANKEI EXPRESS

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