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李娜に80万元の報奨金 湖北省政府に非難殺到

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李娜に80万元の報奨金 湖北省政府に非難殺到

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オーストラリア・メルボルン  【国際情勢分析】

 オーストラリアのメルボルンで行われたテニスの全豪オープン女子シングルスで、中国の李娜(り・な、31)がドミニカ・チブルコバ(24)=スロバキア=を7-6、6-0で下し、初優勝した。4大大会では2011年の全仏オープン以来、通算2勝目。国家の強化システムから飛び出した“反逆者”の国際舞台での活躍は、当局に不満を持つ国民から喝采を浴びるのが常だが、今回は、李娜の人気に便乗しようとした地方政府の失策が、思わぬ騒動を引き起こしている。

 全豪優勝、故郷に凱旋

 決勝戦の2日後の1月27日、李娜は前コーチの夫、姜山氏(33)とともに、ふるさとの湖北省武漢市の空港に到着した。空港には湖北省共産党委員会や湖北省政府の幹部らがずらりと並んで、「地元の英雄」を出迎えた。さらに、省政府が、報奨金として80万元(約1360万円)を李娜に贈ったことが、インターネット上で集中砲火を浴びているのだ。

 「どうして出迎えなんかしたんだ?」「納税者のお金を使って李娜に80万元も贈るとは。その根拠は何なんだ?」-。中国のポータルサイトが実施したアンケート調査では、回答者の76%、4万2700人が、省政府幹部らの行動や決定に反対票を投じた。別のサイトが行ったアンケート調査でも、10万人を超えた回答者のうち、83%が「同意できない」と回答した。

 「なぜ、そのお金を人々の生活を改善するための、もっと大事なプロジェクトに使わないのだ?」と訴える書き込みには、瞬く間に9000人以上の賛同が集まった。

 変わってきた世論

 中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(電子版)によると、中国では1980年代、国際的なスポーツ大会でメダルを勝ち取り、国家に栄誉をもたらした選手に対し、報奨金を与えることは、当然のことのように受け止められていた。しかし、李娜のようなプロスポーツ選手が活躍する昨今、「世間の考え方が変わってきた」という。

 スポーツを国威発揚の道具に利用してきた中国では、「国家」が「個人」の上位に置かれている。2010年バンクーバー冬季五輪では、女子ショートトラックで金メダルを獲得した当時18歳の周洋(22)が「これで両親の生活を少し楽にさせられる」と発言したところ、国家体育総局の幹部が「両親より国家への感謝が先」と非難したほどだ。

 李娜は08年、他の女子選手3人とともに、国家チームを離脱した。恋愛を禁止されたことが理由とも伝えられているが、ともかく、スポンサー料などの商業収入の8%、大会の賞金の12%を中国テニス協会に納めることを引き替えに、練習や試合出場について、自分の思い通りにできる“自由”を手にしたのだ。

 幹部への不満の裏返し

 李娜が優勝インタビューなどで、共産党や国家への感謝を口にすることはない。そんな国家の強化システムから独立したスポーツ選手に対する公費の支出を、疑問視する声がある。湖北省は李娜の成功に何ら関わっておらず、省政府が李娜に報奨金を贈るのは筋違いだ、との意見もある。

 中国のスポーツサイトの編集長は環球時報に対し、「いかなる公的なシステムにも属していない李娜に対する、湖北省の報奨金は湖北省の宣伝キャンペーンの一環だ」と指摘している。また、別のサイト関係者は李娜と幹部らの面会を「ひどい見世物だ」と表現。「役人は納税者の80万元というお金を、スターに会うという自分の夢を実現するために使った」と強烈に批判している。

 環球時報によると、広東省の弁護士は湖北省政府に対し、李娜に贈った報奨金の出所や、支出が規則に合致しているか否かといった情報の開示を求める訴えを起こしたという。もっとも、当局が李娜の凱旋を“無視”すればしたで、批判されていたに違いない。結局、今回の騒動は、特権を謳歌する当局幹部に対する不満が燻っていることの裏返しでもある。(中国総局 川越一(かわわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS

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