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「羽生・浅田モデル」でモノ作り復活目指せ

 日本の各地で小さな試みながらも、「世界で初めて」を目指す若者たちによる地域の特性に合わせた産業を興す挑戦が相次いでいる。北の国で特定非営利活動法人(NPO)を運営する知り合いの若者から便りが届いた。

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、雪氷の冷熱を利用するプロジェクトの提案を行ったという。雪氷冷熱エネルギーで生産、貯蔵された食材を選手、観客ら食事として提供したり、雪氷による冷房を選手村や競技場施設の空調に使用したりするというもの。北海道ではすでに食材の貯蔵、ホテルや農業用温室の夏場の冷房などに実用化が始まったが、東京五輪の機会を利用して世界に広めようというわけである。

 失敗より挑戦の満足

 思えば、日本人の特性は、「世界初」あるいは誰も手がけなかった仕事に情熱を燃やすDNAにある気がする。敗戦時の荒廃から奇跡的に復興し、高度成長を遂げた最大の要因はそんな国民性にあるのではないかという仮説を、筆者は立てている。科学的な論証はできないが、状況証拠には事欠かない。

 最近の超ド級の「世界初」業績は、京都大の山中伸弥(しんや)教授による、iPS細胞(人工多能性幹細胞)であることは論をまたない。世界を驚愕(きょうがく)させた理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子研究ユニットリーダーらのチームによる万能細胞「STAP(スタップ)細胞」については、論文に疑念が指摘されており、その学術的真価は関係機関の調査結果を待つしかない。が、彼女の「世界初」への奮闘が広く関係者から称賛されていることは心強い。

 最もホットな世界初は何と言っても、ソチ冬季五輪の羽生結弦(はにゅう・ゆづる)、浅田真央(まお)の両フィギュアスケート選手である。羽生選手は、4回転ジャンプにこだわり金メダルを手にした。その後の彼のコメントがすばらしい。今後は世界に先駆けて「4回転半」に挑戦するというのだ。

 浅田選手も、転倒や減点のリスクの方が成功の確率より高いのに、現在の女子選手では彼女にしかできない「トリプルアクセル(3回転半)」にこだわり続け、ショート・プログラムでの大失敗を乗り越えてフリーで成功させ、世界を感動させた。「世界初」には国境や人種を超えて訴えるものがあることを、彼女は無意識のうちに感知しているに違いない。だからこそ失敗の代償よりも、挑戦による満足を彼女は選んだのだ。

 「世界初」という文脈で考えると、日本の産業界の動向が気がかりだ。代表例がパソコン事業からの撤退とカラーテレビ事業の分社化を発表したソニーである。ソニーは年配者にとっては「世界初」を得意とする日本企業の代表だったし、筆者もかつて海外取材のときには高性能のソニー製テープレコーダーを誇らしげに携行したものである。1950年代前半のトランジスタ・ラジオの世界初の実用化への挑戦に始まり、トリニトロン・カラーテレビ、ウォークマンなど、世界唯一無二の技術を誇った。

 ソニーに限らず、家電を中心とする日本の電子・電機産業はこのところ縮小に次ぐ縮小、撤退また撤退という悪循環にはまっている。そんなときの結弦君、真央ちゃんの活躍は、日本に生きるわれわれを奮い立たせてくれる。

 モノ作りでの「世界初」や「世界無二」に対する目標意識は、収益最優先の米国型資本主義には見られない日本のビジネス風土と言ってよい。超精密の機械や電子機器部品では、宇宙・航空用やスマートフォン用部品など、日本でしかできない分野は数多いし、その多くは中小企業が担っている。

 気になるのは大企業のビジネス文化である。ソニーもその例だが、株主利益を最重視する米国型グローバリズムの波に押され、収益性が低いとさっさと切り捨て、新規事業分野にはM&Aで手っ取り早く進出しようとする。自社の人材や蓄積された技術を信頼して世界初の技術や製品を生み出す情熱と哲学がうせているとすれば、日本の強みは発揮されない。短期的な利益追求では、失敗するリスクの高い世界初と取り組む社内文化が生まれないことは、往年の名経営者たちが一様に意識し、自戒してきた。

 民間も政府も「羽生・浅田型スピリット」を日本型成長モデルととらえて、成長戦略を再構築すべきではないか。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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