ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
スポーツ
【ボクシング】「怪物」井上尚 最速6戦目で世界王者
更新
6回、アドリアン・エルナンデス(右)を倒し、TKO勝ちで世界王者の座を奪取した井上尚弥=2014年4月6日、東京都・大田区総合体育館(今野顕撮影) 世界ボクシング評議会(WBC)ライトフライ級タイトルマッチは4月6日、東京・大田区総合体育館で行われ、ライトフライ級4位で20歳の井上尚弥(大橋)が、チャンピオンのアドリアン・エルナンデス(メキシコ)に6回2分54秒、TKOで破り、日本選手最速となるプロ6戦目での世界王者となった。
これまでの最速記録は2011年2月、WBCミニマム級王座に就いた井岡一翔(井岡)の7戦目だった。
アマチュア時代の豊富な実績に加え、鮮やかに相手を仕留めるファイトスタイルから“怪物”と称される男が、ボクシング界に新たな歴史を刻んだ。井岡一翔(かずと、25)や辰吉丈一郎(たつよし・じょういちろう、43)ら日本の歴代の名ボクサーを上回る、最速記録のプロ6戦目で世界のベルトをつかみとった。
競技に打ち込む父、真吾さん(42)の姿にあこがれ、「ボクシングがしたい」と打ち明けたのは小学1年のとき。この世界の厳しさを知っているだけに真吾さんはあえて厳しいことを言った。「弱音は吐くなよ」。親と子の枠を超えた男同士の約束だった。それ以来、井上はボクシングを「やめる」と口にすることはなかった。
高校生では史上初のアマチュア7冠という勲章は、父との誓いを守って努力を怠らなかった証しだ。プロに入ってからも練習に取り組む真摯(しんし)な姿勢はまったく変わらない。
天才的と言われるスピードは、スパーリング主体の調整で身につけた。手合わせをしたことがあるアマチュアのトップ選手は「コンビネーションの間隔など細かいところが速い」と印象を語った。
世界王座は夢ではなく、現実的な目標だった。プロデビューしたころからずっと注目を集め、最速での挑戦すら本人は「覚悟していた」。記録ありきではなく、4戦目で日本、5戦目で東洋太平洋のタイトル奪取と一歩ずつ段階を踏んできた。しかもこれまですべて完勝だった。所属ジムの大橋秀行会長は「最速を狙ったわけではなく、必然的にそうなった。彼は日本ボクシング界の宝だ」と力を込める。
初の世界挑戦となった試合の2日前には「不安はあります。やられるイメージだってある。だけどそういう試合はわくわくする」と語っていた。ビッグマウスでなく、謙虚すぎるところもない。冷静に自分を観察できるところが強みだ。
リングを一歩離れれば、スマートフォンのゲームに熱中する20歳。減量の厳しさから、近い将来に階級を上げることになりそうだ。今後は複数階級制覇や井岡ら、強豪とのビッグマッチの実現に期待がかかる。
本人がこだわるのは「ずっとチャンピオンでいること」。その拳が描き出す軌跡に、夢は膨らむ。(SANKEI EXPRESS)