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政治
日豪EPA大筋合意 安全保障も強化 TPP交渉動かす思惑も
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牛肉輸入量の国別割合(2012年度) 安倍晋三首相(59)は4月7日、東京・元赤坂の迎賓館で、オーストラリアのトニー・アボット首相(56)と会談し、日豪の経済連携協定(EPA)の締結で大筋合意した。安倍首相は会談後の共同記者発表で、「大筋合意は両国間の緊密化にとって歴史的意義がある」と強調。「可能な限り早期の署名に向けて作業を迅速に進める」と語った。
首脳会談では、EPA交渉の焦点だった日本の豪州産牛肉の関税(38.5%)について、牛肉関税を段階的に引き下げ、冷凍品は協定発効から18年目に19.5%、冷蔵は15年目に23.5%にすることで合意。輸入が一定量を超えた分は関税を38.5%に戻す。
一方、牛肉関税を引き下げる見返りに、オーストラリアは日本車にかけている関税(5.0%)の撤廃に応じることを確認した。
会談ではこのほか、日豪両国の安全保障や経済など多岐にわたる「戦略的パートナーシップ」を強化することを確認。安保協力を一層深めるための防衛装備品の共同開発で一致し、潜水艦の関連技術をめぐる共同研究に着手することで合意した。また、6月に外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を東京で開くことで一致。北朝鮮の核・ミサイル問題や拉致問題では緊密に連携していくことを改めて確認した。
さらに、日本による南極海での調査捕鯨を国際捕鯨取締条約違反だとした国際司法裁判所(IJC)の判決をめぐる問題が、日豪関係全体に影響を及ぼさないとの認識を共有した。
≪TPP交渉動かす思惑も≫
安倍晋三首相が4月7日、オーストラリアのアボット首相との首脳会談で大筋合意したEPAは、日本にとって農業大国との貿易自由化の先例になる。加えて、農産品の関税撤廃問題で難航する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉を動かすテコにしたい思惑もある。今回の大筋合意によって、日本の通商戦略は再び加速しはじめるのか-。
「2国間の関係を新たな特別な関係に引き上げ、一層強固なパートナーシップを作り上げていくことを確認した」
安倍首相は首脳会談後の共同会見で日豪EPAの大筋合意についてこう説明し、その意義を「両国間の貿易投資を促進する極めて重要な枠組みだ」と強調した。
日本がこれまで結んだ13のEPAの相手国はアジアや南米が大半を占め、「豪州は農業大国と初めての協定」(農林水産省幹部)。豪州からの主な輸入品目は、日本が関税撤廃・削減をしたことがない牛肉や小麦、大麦などで、なかでも牛肉は日本国内に最も多く出回っている外国産牛肉だ。
今回の交渉では、豪州が現在38.5%の牛肉関税を半分にしてほしいと訴え、20%台への引き下げで折り合いたい日本側との間で最後まで攻防が続いた。
日本側にとっても畜産業界などの反対を踏まえればぎりぎりの譲歩といえるが、7年越しの交渉を決着させることにしたのは、牛肉の対日輸出で競合する米国が焦り、TPP交渉で軟化してくるかもしれないとの期待があるためだ。
日本の牛肉市場で、米国産は豪州産の半分程度のシェアにとどまる。日本が昨年(2013年)2月にBSE(牛海綿状脳症)で規制してきた米国産の輸入対象を拡大して以降、米国も追い上げているが、豪州産が関税引き下げで先行すれば価格競争で再び不利になる。
ただ、日米両政府が7日に都内で再開したTPPの事務レベル協議は農産品の関税分野などで「まだ間合いがかなりある」(大江博首席交渉官代理)のが実情。日本政府内には「EPAとTPPの交渉は別物。豪州や米国がTPPでさらなる市場開放を迫ってくる可能性はある」(通商筋)との不安も拭えない。
通商戦略の推進は安倍政権の成長戦略の柱だけに、今回の“成果”をTPP交渉の膠着(こうちゃく)打開につなげられるかどうかが問われることになる。(本田誠/SANKEI EXPRESS)