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わくわくする木皿戯曲にぞっこん 舞台「ハルナガニ」 薬師丸ひろ子さんインタビュー

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わくわくする木皿戯曲にぞっこん 舞台「ハルナガニ」 薬師丸ひろ子さんインタビュー

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昨年、「あまちゃん」撮影の合間を縫い、2泊4日で米ブロードウェーで観劇。「一瞬、一瞬を勝負する俳優の気迫が伝わり、舞台に立つ背中を押してくれた」と語った薬師丸ひろ子さん(原田史郎撮影)  【ステージドア】

 「すいか」「野ブタ。をプロデュース」など、ユーモラスで味わい深い人間ドラマを生む夫婦脚本家、木皿泉(きざらいずみ)の新作戯曲「ハルナガニ」(内藤裕敬演出)で、薬師丸ひろ子(49)が小劇場の舞台に立っている。

 台本に泣けて、泣けて…

 直近の舞台作も木皿戯曲「すうねるところ」(2012年)。「演じていて心が揺れたり、すぐそばの日常でこんなことが起こっていたんだ、と気付かされたり。わくわくするのが木皿さんの作品」と女優魂が刺激された。寡作作家の新作を逃すまいと、今回も出演を快諾した。

 演じる久里子は会社員の夫・春生(渡辺いっけい)と高校生の息子・亜土夢(細田善彦)と暮らす、パート勤めの平凡な主婦。物語は久里子の死後1年、春生が妻をしのんでフランク永井の「おまえに」をさめざめ歌うシーンから始まる。「台本が最初の12ページ分だけ届いて読んだとき、春生の気持ちが切なくて。泣けて、泣けて…ところがそのまま終わらないのが、木皿さんですよね」

 なんとそこに、死んだはずの久里子が「ただいまぁ」と買い物袋を提げて帰宅する。「自分は生きていて、死んだのは相手のほう」だと互いに言い張る久里子と春生。だが亜土夢(と観客)には久里子も春生も見えている。誰が生きているのか、白とも黒ともつかないまま、不可思議な世界へ引きずり込まれる。

 登場人物を慈しむように

 しかし、似たような状況は実社会でもままある。家族や集団の中で、自分の存在が空気か「透明な何か」にでもなったかのように感じ、心もとなくなることはないだろうか。

 相手にとって自分はいるのか、いないのか。あるいは誰かに「いる」と認識されなくても、自分は「いますよ」と言い切れるのか。「実存」を確認するには、結局、相手とぶつかり合うしかないのだと気付く。4月15日の公演では、薬師丸が髪を振り乱しての夫婦ゲンカを演じ、実存を確かめる姿があった。

 「この夫婦は、中途半端さがない。ケンカも本気。相手を無視して、やり過ごしてしまえばラクに生きられるのに、って思いますが、久里子たちはそうしないんですね。すごく精いっぱい生きているんです」と薬師丸。

 なんと不器用な生き方だろう。薬師丸も「演じるほうはとても疲れます」と認めつつ「演じれば演じるほど、かわいい人たちなんです。登場人物の感情に寄り添うように、見ていただけたら」。この不器用な面々を心から慈しむように、日々舞台に臨んでいるのだった。(文:津川綾子/撮影:原田史郎/SANKEI EXPRESS

 ■やくしまる・ひろこ 1964年、東京生まれ。78年、映画「野性の証明」でスクリーンデビュー。「セーラー服と機関銃」(81年)をはじめ、「探偵物語」(83年)、84年の「メイン・テーマ」「Wの悲劇」など角川映画の数々で主演と主題歌を担当、いずれもヒットを飛ばした。昨年はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」にも出演。

 【ガイド】

 ■4月27日まで シアタートラム(東京)。梅田芸術劇場(電)0570・077・039。

 ■5月2~4日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ (大阪)劇場(電)06・6377・3888

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