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新幹線は読書のリズムにもってこいだ セイゴオ流マーキング読書術の秘密 松岡正剛
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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)
飛行機が苦手だ。あるとき風邪気味の体調でサンフランシスコからの帰りに乱気流に突っ込んで、耳がとんでもなく痛くなった。すぐに耳鼻咽喉科に走ったところ、鼓膜が引っ込んでます、ヤバイですと言って、原始的なフイゴ(鞴)のような器具で鼓膜をぐいぐい吸いこんだ。あげくは「松岡さんは耳管が細いんで気をつけてください」だ。以来、飛行機が大いに苦手になった。
もともとぼくは乗り物でも本が読めるタチである。酔いはしない。必要ならタクシーでも本や文書を読む。とくに列車はお誂(あつら)え向きで、たいていは果敢なリーディング・ライダーになっている。東京-京都間くらいだと、往きも復(かえ)りもしっかり数冊が読める。ただし、ぼくには度しがたい欠陥もある。筆記用具がないとからっきしなのだ。
マーキングをしながら本を読む。これがぼくの最も基礎的な読書法になっている。そのマーキングの仕方にも何種類もの手法があって、調べものちょいちょい型、勝手お遊び型、精読征服型、短距離アスリート型、文意触発型、疑問析出型、八双とびとび型、陶酔陶然型、連想しまくり型…等々、選んだ本の質感やそのときの気分や場所によって変わる。その手法が何になるかは、本を開き、右手にシャープペンシルやボールペンを持ったとたんに決まるのだ。ということは筆記用具がないときは、著者の言いなりになりかねないということになる。
読書にはさまざまなリズムが関与する。読書の醍醐味が読み方のリズムにあるというだけでなく、本が「言葉の楽譜」だとすれば、その中身は著者の指定を読み手のリズムにどのくらい変換できるのかにかかっているとさえ言えるのだ。
演奏者たちは楽器を弾きながら次の進行を引き取っていける。料理人は包丁を使いながらレシピの進行と味付けを加算する。そうなれるのは、そこに独特のリズムが進行している様子を体感できているからだ。サッカーのドリブルは足元のボールのリズムがゲーム全体の進行に対応できているからであり、サーファーが斜めの波乗りをできるのは「波という文章」を自分の体に引き取っているからである。読書だってそうなのだ。本とぼくのアタマと体とが照応しないかぎり、独特の読書なんて、できるわけがない。そのとき、青いボールペンや赤いサインペンが2つをつないでくれるのだ。
というわけで、マーキング読書とはいっても、そこには本の持ち方、ペンの使い方、そのときの姿勢、腹具合、ページをめくる速さ、インクの出方、紙の厚み、そのほかさまざまなリズムが勢いよく複合する必要がある。読書はピアノの練習にもサッカーの練習にも似ているわけなのだ。新幹線はそういう「読書リズムの体得」に欠かせない。そこはとっておきの“走る読書ジム”なのだ。(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS)