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ダイヤモンドとパールの可能性さぐり続ける TASAKI

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ダイヤモンドとパールの可能性さぐり続ける TASAKI

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18万粒のパールが地表から浮かび上がるように孤を描いて連なり、半球をなす。60周年記念に制作された「ザ_パールズ_ドーム」という名のインスタレーション(提供写真)  【Brand Story】

 ジュエリーブランド「TASAKI」が、今年で創業60周年を迎えた。真珠の養殖・加工・販売から出発した老舗だが、1994年にはダイヤモンドの世界最大手、デビアスグループから直接ダイヤモンド原石を取引できる資格を日本で初めて取得。長崎・九十九島とミャンマーの自社養殖場で育てた「真珠」と、自社でオリジナルカットを施した「ダイヤモンド」という、高品質の2つの素材で、モダンで新しいジュエリーをと、2009年、クリエーティブディレクターにニューヨーク在住のファッションデザイナー、タクーン・パニクガル氏(39)を起用。同時に、ブランド名を田崎真珠からTASAKIに変えた。それから5年。これらの革新は60年の伝統とどのように融合し、新たに何を生みだしたのか。来日したタクーン氏に聞いた。

 「パールは母や祖母が特別な時に身につけるもの。そんなイメージを変えたいと思いました。若い人も毎日身につけ、週末にはジーンズやTシャツと合わせるような流行を生み出せないか」

 イメージが定着した伝統的なものでも、そこに「ひとひねり」を加え、誰も見たことのない新しいものを生む。こうしたチャレンジ精神は、タクーン氏のクリエーションの核といえるだろう。

 きっかけは一枚の付箋から

 09年、未経験のジュエリー分野でのクリエーティブディレクター就任を引き受けたのも「チャレンジがとても好きで、制約があるほど力を発揮することができる」(タクーン氏)との性分だからだ。

 ファッションに比べ、ジュエリーのデザインワークにはいろんな制約があり、建築設計のような綿密さが求められる、という。しかしタクーン氏は早速、制約を逆手に無駄がなくシンプルで美しい、モダンなパールジュエリーを生む。それが金の直線上に、パールをリズミカルに並べた「バランス」のシリーズだ。

 「このデザインが生まれた瞬間は今でもはっきり覚えています。TASAKIからジュエリーのデザインを依頼されたけれど、果たして僕に何ができるのか…と一生懸命考えながら、いつしか手元にあった付箋にペンで円をぐるぐるぐる…と描いていました。それを見て、コレならデザインのストーリーが構築できる、とひらめいたんです」。その付箋をタクーン氏は今でも大切に持っているという。

 反逆的な美しさ

 次にタクーン氏はパールやダイヤの常識を創造的な形で破壊する。反逆(リベリオン)の名を冠し10年に誕生した「リファインド リベリオン」のシリーズでは、パールにツンと尖鋭なダイヤのツノを付ける。が、その際、パールの一部をカットしてしまうのだ。パールは一般的に、球体に近いほうが美しいとされる。その上、ツノのダイヤも、「伝統的なカッティングを施されたダイヤを逆さにして半分にし、通常は土台に組み込まれて見えないほうの半分を使ってみたら…」(タクーン氏)という逆転の発想の賜物(たまもの)だった。

 「ダイヤもパールもともに古くからある伝統的なもの。それを新しい形で組み合わせ、モダンなものを作る。それがリベリオンという考え方なのです」。そう言ってタクーン氏は、シリーズの新作ネックレス「リファインド リベリオン スプレンディッド」を手にとり、「まるでダイヤとパールがダンスしているみたいでしょう?」と言った。なるほど、とんがりダイヤに密着したパールがまるで抱き寄せられているようで、60個がねじれながら連なるさまは、まるでダンスの軌跡のようにも見えた。

 食虫植物をモチーフに

 さらに12年には食虫植物をモチーフに、パールの純粋さと野性味を組み合わせたユニークなジュエリーシリーズ「デインジャー」が誕生。「パールが持つ、保守的なイメージを壊し、インパクトを与えたかった。インパクトによりパールはモダンで美しく、アグレッシブなものに一転するから」

 そんなタクーン氏が就任から5年、創業60周年という節目の春夏に打ち出したテーマは「ランドスケープ・スカルプチュア」(風景の彫像)。60周年特別記念と銘打たれたジュエリーには、藤の花、桜と、日本で古来愛されてきた花のモチーフがそろう。「これらの花にはクラシカルな美しさがありますね」とタクーン氏。若き天才は、艶やかなパールの光沢と、ダイヤが乱反射する透明な光を巧みに組み合わせ、ため息がでるほど美しいネックレスなどに仕立てた。

 「TASAKIの仕事はとても面白い。ダイヤとパールの新しい可能性を常にさぐり続けたいですね」

 ≪洋服に花を咲かせる≫

 「本当に花が好き。自宅の庭にはバラやピオニー(芍薬)、アジサイを植えています」というタクーン氏の洋服には、フラワーモチーフがよく出てくる。2008年の米大統領選の期間中、バラク・オバマ候補(当時)の妻、ミシェルさんが着たドレスもフラワー柄。2014~15年秋冬コレクションでも洋服にエレガントなフラワーを咲かせた。(津川綾子/SANKEI EXPRESS

 ■Thakoon Panichgul 1974年、タイ生まれ。幼少時に家族とともに米国に移り、ネブラスカ州オマハで育つ。ボストン大学で経営学を学び、アパレル「Jクルー」でビジネスのノウハウを習得。「ハーパース・バザー」誌の編集者を経て、デザイナーに転身。NYのパーソンズデザインスクールで学び、2004年9月、自身のブランド「THAKOON」の初コレクションを発表。以降、NYモード界を背負うデザイナーの一人として、高い評価を受けている。

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