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なでしこ アジア杯制覇 常に輪の中へ… 新主将、歓喜の時
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アジアカップを授与され高々と掲げる主将の宮間あや。後ろは左から川澄奈穂美、岩清水梓(あずさ)、澤穂稀(ほまれ)=2014年5月25日、ベトナム・ホーチミン(共同) 大震災の2011年にワールドカップを制し、一昨年(2012年)の(ロンドン五輪では銀メダルを獲得したが、サッカー女子日本代表、なでしこジャパンはこれまで、アジアカップを制したことがなかった。
ベトナムで行われたアジア杯決勝でオーストラリアを下し、カップは主将でMVPにも選ばれた宮間あや(29)に渡された。主将としての初タイトル。うれしい優勝インタビューでは「男子のW杯の弾みになればいい」と話した。いつも人より一つ先を見ている。彼女のプレーぶりと一緒だ。
楽な戦いではなかった。欧州で活躍するレギュラー組の多くを招聘(しょうへい)できず、過密日程の中で選手をやりくりしながらの優勝だった。
グループリーグの初戦では豪州と引き分け、チームが落ち着いたのは4-4-2からシステムを変え、ザッケローニ・ジャパンと同じ4-2-3-1として宮間をトップ下に置いてからだった。ボランチに澤穂希(ほまれ、35)と阪口夢穂(みずほ、26)が並んでボール奪取力が高まり、2人と自由にポジションをチェンジする宮間はフリーで司令塔役を演じる時間が長くなった。
左を走る川澄奈穂美(28)とのホットラインが太くなり、左右両足で蹴るセットプレーも冴えまくった。
圧巻は準決勝、中国戦の左コーナーキック。ニアに走り込む澤の頭に合わせた低く速い弾道は、W杯決勝の米国戦と同じ軌道で狭いゴールに吸い込まれた。
澤のマーカーをブロックしたのが、DFリーダーの岩清水梓(あずさ、27)だ。「東北魂」を看板とする岩清水は中国戦の延長終了間際に宮間の左CKから決勝ヘッドを決め、決勝の豪州戦も値千金の決勝ゴールを頭で決めた。
澤から「苦しいときは私の背中を見て」と主将のバトンを渡された宮間はこの大会中、常に代表初招集や経験の浅い選手の輪の中にいようとした。熱戦翌日に練習を免除されても若い選手のために水を運び、スタッフからこれを止められるとペットボトルの一本一本にメッセージを書き込んだ。
背中で引っ張るリーダーから輪の中心にいる主将へ。個性は変われどチームワークの良さがこのチームの強みであることは変わらない。加えて宮間には、アジア杯に強い思いがあった。澤にとっては、これが9度目のアジア杯。「澤さんが優勝していないなんておかしい。彼女がいるチームで優勝できてよかった」と宮間は話した。
いまや澤も、「あやについて行く」と話している。
≪弾ける笑顔 「男子W杯の弾みに」≫
笑顔の写真はいい。どの顔も本当にうれしそうだ。厳しい日程の中で戦い取ったアジアのタイトルだ。選手らには、存分に喜びに浸ってほしい。
ただ、今大会では課題も浮き彫りになった。中央でカップを手にする宮間の後方はGKの山根恵里奈(23)だ。一段高い台上にいるのではなく、身長187センチ、本当に大きい。初戦の豪州戦ではゴールを守ったが2失点を喫し、決勝トーナメントでは前列左から2人目、ロンドン五輪の主戦GK福元美穂(30)に守護神を譲った。山根が正GKに定着すればゴール前の高さは大きな盾となるが、安定感は165センチの福元に及ばない。
前ページの記事に選手名が5人出てくる。宮間、澤、阪口、川澄、岩清水。いずれもW杯優勝時のレギュラーだ。5人だけではない。グループリーグだけの出場でイングランドに帰った大儀見優季(おおぎみ・ゆうき、26)は存在感の違いをみせつけた。前日の5月24日には仏リーグでリヨンが8連覇を飾ったが、そこにはDFでフル出場の熊谷紗希(さき、23)がいる。アジア杯の大会中、脆弱(ぜいじゃく)な右サイドの守りを攻められ続けたが、アーセナルの近賀(きんが)ゆかり(30)が合流すれば、ひとまず解消するだろう。
宮間の左隣にDFの川村優理(25)、右に川澄、岩清水の隣に中島依美(えみ、23)。大会中の成長株はこの2人だろう。ただ、W杯組を脅かす存在とまでいえるか。彼女らが偉大なだけに、世代交代の難しさを抱えたまま、来年のW杯を迎えることになる。
この日の笑顔は、なでしこだけではなかった。インドではバドミントンの国・地域別対抗戦、男子トマス杯決勝が行われ、マレーシアを3-2で破った日本が初の団体世界一に輝いた。1949年に始まった伝統の大会。準決勝では中国の6連覇を阻止し、堂々の初優勝だった。
東京国立競技場では改修前の最後のスポーツ大イベントとして、ラグビーのアジア5カ国対抗戦が行われ、日本が香港を49-8で下して優勝した。笑顔で優勝カップを手にするとともに、2015年W杯イングランド大会への切符も手にした。
お隣の国立代々木競技場では、サッカー男子日本代表の壮行会が行われた。代表23選手が勢ぞろいし、ザッケローニ監督は「われわれの冒険を心から応援してほしい」と話した。
なでしこ、バドミントン、ラグビー。いい日の壮行会となったはずである。宮間の言葉をもう一度。「男子のW杯の弾みになればいい」(EX編集部/撮影:共同、AP、ロイター/SANKEI EXPRESS)