SankeiBiz for mobile

【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】怒り、悲しみ、狂気演じたソン・ガンホ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

【ヤン・ヨンヒの一人映画祭】怒り、悲しみ、狂気演じたソン・ガンホ

更新

映画「観相師-かんそうし-」(ハン・ジェリム監督)。公開中(樂舎提供)。(C)2013_SHOWBOX/MEDIAPLEX_AND_JUPITER_FILM_ALL_RIGHTS_RESERVED.  □映画「観相師」

 当代屈指の名優

 ソン・ガンホ主演、と聞いただけで映画館に足を向ける人は多いだろう。世界中の映画ファンは、韓国の大統領の名前は脳裏になくとも“アジアの至宝”と名高いこの俳優を忘れることはない。その彼が初めて史劇にチャレンジした作品である。まずタイトル(原題は「観相」)がいい。「観相師」とは顔を見るだけで性格から運勢、寿命まで見抜く占い師のことである。韓国といえば言わずと知れた占い大国。政治家や芸能人などのセレブから一般市民に至るまで、皆が行きつけの占い師をもっていて、ほとんどの冠婚葬祭は占い師の助言を参考に行われる。現代でも国民の生活と切り離せないそんなキャラクターを当代屈指の名優がどう演じるか。韓国で913万人の観客動員数を記録したと聞き、期待をもってスクリーンと向き合った。

 輝きを放つ共演者

 練りに練られた脚本が飽きさせない。権力争い、官僚の汚職、子供の命と引き換えに脅される親など、時代劇の必須要素が実に効果的に組み込まれている。権力者の強欲さと残酷さを容赦なく描く姿勢が貫かれている点も見事。韓国映画の底力はまさにこの“シナリオ力”にあるのだと実感する。

 “人気スター”“アイドル俳優”“セクシー女優”などの陳腐な呼称ではとても呼べない、容姿実力ともに鍛え上げられた俳優たちの演技が輝きを放つ。主人公の観相師ネギョンの義弟ペンホンを演じるチョ・ジョンソクの小気味良いせりふ回しは、何度も吹き出してしまった。イ・ジョンソクは、気品たっぷりな美しさでネギョンの息子ジニョンを演じている。繊細だが芯の強い美形男子キャラクター、そのはかなげな視線はまさに女殺しである。

 私が勝手に「韓国のマリリン・モンロー」と呼んでいるキム・へス演じるヨノンの存在感。男の愚かさやズルさを知りつくしているヨノンのしたたかで逞(たくま)しい色気は磨きぬかれた真珠のようだ。イ・ジョンジェが王位への執念を燃やし邪魔者を粛清する首陽大君役でダーティー・ヒーローを見事に演じているのも大きな話題を呼んでいる。人気俳優から実力俳優へとステップアップしたその陰に役者としての並々ならぬ努力がうかがえる。

 新しい魅力発揮

 そしてソン・ガンホ。人情溢(あふ)れる役柄の中にも潜む怒りと悲しみ、そして狂気さえも変幻自在に演じ切ってきた役者である。そんな彼が「観相師」というミステリアスな衣を纏(まと)い更なる新しい魅力を発揮していた。年齢を重ねることで、代謝を重ね発酵熟成された彼の新しい細胞が静かに輝きを放っているかのようだ。

 私は、釜山国際映画祭などで数回ソン・ガンホにお目にかかっている。スタッフや監督たちとの食事会にも参加させていただいた。自他ともに認める酒豪である彼が仲間たちの話を聞きながら静かに飲んでいる姿が印象的であった。普段はほとんど映画を見ないらしく、他の俳優の出演作にもあまり興味がない様子で無口だったが、サッカーに夢中だという息子さんの話になると途端に饒舌(じょうぜつ)になった。そのギャップが何とも微笑(ほほえ)ましかった。映画を作る仲間たちと家族のように寛(くつろ)ぐ姿を見て、彼にとって撮影現場は特別な空間というよりも普通に「生きる場所」なのだろうと思った。役を与えられたソン・ガンホには神が降り、そこで生かされるのだ。

 韓国のアカデミー賞といわれる大鐘賞映画祭では最優秀作品賞、主演男優賞など6冠を獲得し、他の賞レースでも戴冠を続けている。本作を製作したジュピターフィルムは、作品完成前から純利益の50%を慈善財団に寄付することを決めていたという。映画人の心意気溢れる作品である。東京・シネマート新宿ほかで公開中。(映画監督 ヤン・ヨンヒ/SANKEI EXPRESS

 【STORY】

 15世紀の朝鮮。キム・ネギョン(ソン・ガンホ)は、人の顔を見ただけで、たちまちその人物の性格や寿命を見抜いてしまう「天才観相師」として名をはせていた。特殊な能力を聞きつけた宮廷はほどなくネギョンを要職に就けたが、王の弟、首陽大君(イ・ジョンジェ)に「逆賊」の相を読み取ったことが引き金となり、ネギョンは宮廷内部の激しい権力闘争へと巻きこまれていく。本作は実際に起きたクーデターを題材としている。(SANKEI EXPRESS

 ■ヤン・ヨンヒ(梁英姫) 1964年、大阪市生まれ。在日コリアン2世。映画監督。最新作「かぞくのくに」は第62回ベルリン国際映画祭で国際アートシアター連盟賞を受賞。他に監督作「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」がある。

ランキング