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【まぜこぜエクスプレス】Vol.19 夢を絶対にかなえる職場 「アンシェーヌ藍」オーナー、竹ノ内睦子さん
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レストラン「アンシェーヌ藍」と伝統工芸・藍染の「藍工房」のスタッフと、社会福祉法人「藍」理事長の竹ノ内睦子さん(前列左)=2014年7月14日、東京都世田谷区(山下元気さん撮影) 東京都世田谷区の三軒茶屋にある「アンシェーヌ藍」は、落ち着いた雰囲気の中でおいしい料理を楽しめるフレンチレストランだ。“世田谷マダム”だけでなく、皇室や政府関係者もご用達というこの店は、実は障がい者の自立を支援するための職場でもある。オーナーの竹ノ内睦子さん(社会福祉法人「藍」理事長)に話を聞いた。
「すてきなレストランで、ウエートレスをしたい」。アンシェーヌ藍は、「藍」で働く工藤はるかさんのそんな夢からスタートした。
「藍」の理事長である竹ノ内さんも大病を患い、車いすを利用している。脳性麻痺の女性と出会い、「仕事がしたいのに、働く場がない」と訴えられ、1983年に世田谷で伝統工芸の藍染の「藍工房」を立ち上げた。
竹ノ内さんのモチベーションはとてもシンプル。「私は障がいをもつ人の夢は、絶対にかなえたい」と断言する。「健常者がやれることは、障がい者もやっていいと思う。障がいがあるからって、何かをあきらめなきゃならないのはおかしい」
これまでも「海外に行ってみたい」という夢をかなえるために、アメリカに「Aikobo USA」を作り、「ひとり暮らしがしたい」という夢に応え、グループホーム「藍ハウス」を作ってきた。
竹ノ内さんのすごさは、「夢は必ず実現する」という強い意志と、そのやんちゃな行動力にある。本人は「私ひとりでは無理。いろんな人に手伝ってもらう」とおおらかに笑う。猪突(ちょとつ)猛進の彼女のブレーキ役でもあるアンシェーヌ藍のマネージャー、大野圭介さんは「ファンがつくんですね。竹ノ内さんを助けて、みんなで夢をかなえたいという気持ちになる」と言う。
工藤さんの夢をかなえるため、竹ノ内さんは、働けるレストランを探した。銀座の有名フランス料理店にかけ合い、条件付きでの雇用を取り付けた。
手が震えて物がうまくつかめない、明瞭に話せないといったいくつかの課題があり、初めは工藤さんの家族も、「ウエートレスなんて無理」と思っていた。けれども、工藤さんは、竹ノ内さんの助けを借りながら、厳しい条件のレストランで、3年8カ月働き続けた。
工藤さんの頑張りに感動した竹ノ内さんは、「継続して働けるレストランをつくりたい」と思い立つ。調理長に東京會舘出身の尾原寛さんを迎え、2009年、アンシェーヌ藍を開店した。
店では接客、調理補助、開店準備、清掃などさまざまな仕事を、障がいをもつスタッフが担当している。料理はおいしく、あたたかい接客も心地よい。
ここまでくるのに決して順風満帆ではなかったという。シェフの尾原さんは、「機敏性や判断力が求められる仕事。苦手な人もいて、なかなかうまくいかなかった」と話す。けれども5年間かけてスタッフはゆっくり成長してきたと振り返る。「僕自身もゆっくり待てるようになり、気持ちがやさしくなった」
13年には、「お菓子を作りたい」という従業員のMさんの夢をかなえるために、製菓部門「メゾン・ドゥ・藍」もオープン。藍を練りこんだクッキーやお米のパスタなど、オリジナル商品も扱う。
竹ノ内さんに会うまで、にっこりとほほ笑む女神のような人を想像していたが、ガシガシガンガン前のめりで話す姿が印象的だった。
残念なことに今の日本で障がい者の夢をかなえるには、想像を絶する壁がある。理不尽な世の中に怒ったり、非難や批判に落ち込んだり、立ちはだかる壁の大きさに途方にくれたり…。今は笑い話でも、決してきれいごとだけではすまないことがたくさんあったはずだ。時にはやんちゃな独自のルールで壁を突破してきた竹ノ内さんと、素晴らしい彼女の仲間たちに、大きな「ブラボー」を送りたい。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS)
■「藍工房の仲間たち展」 <会期>2014年8月17~24日。<時間>午前11時~午後6時30分(最終日午後5時)。<会場>Galerie Salon de S(東京都中央区銀座6の3の2 ギャラリーセンタービル2階)