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過酷な環境に身を置いて自分を暴く アルピニスト デビッド・ラマさんインタビュー

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過酷な環境に身を置いて自分を暴く アルピニスト デビッド・ラマさんインタビュー

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「ロッククライミングに必要なのはルートを見通す力。マッチョな体である必要はありません」と語る、アルピニストのデビッド・ラマさん=2014年8月11日、東京都文京区(寺河内美奈撮影)  □ドキュメンタリー映画「クライマー パタゴニアの彼方へ」

 エベレストの無酸素初登頂に成功したオーストリアのペーター・ハーベラー(72)によって山登りの高い能力を見いだされたのは、デビッド・ラマ(24)がわずか5歳のとき。その後、競技クライマーとして数々のタイトルを手中に収め、天才の名をほしいままにした。競技クライマーを卒業した現在は、最も注目すべき若きアルピニストとして世界にその名を知られている。

 そんなラマが2009~12年、南米パタゴニアにある難攻不落の山「セロトーレ」(標高3102メートル)に得意のフリークライミングで3度挑み、ついに登頂を成し遂げた。彼の苦闘をカメラに収めたのがドキュメンタリー映画「クライマー パタゴニアの彼方へ」(トーマス・ディルンホーファー監督)だ。プロモーションで来日したラマは「撮影期間は自分の人生にとって一番重要な時期にあたり、その過程で僕は精神的に成長もできました。そんな姿が映像に収められているなんてわくわくしますよ」と力を込めた。

 何もない凍り付いた頂

 なぜそこまでセロトーレに魅せられたのだろう。「セロトーレ自体は岩だけで作られた自然物にすぎないかもしれません。でも、人間の視点で見ると『美しい』『険しい』『凍り付いている』といった特徴がまず頭に浮かんできて、だんだんと『山とはこうあるべきだ』いう憧れにも似たイメージが出来上がります。さまざまな要素がセロトーレを特別なものにしていくのです」。具体的には、セロトーレの頂上が凍り付いていて、頂上に至るまでの1500メートルの“道”の左右には何もないという、過酷な状況を指摘した。

 無鉄砲といえば失礼なのだが、ラマは命をかける行為にあまり恐怖を感じていないようだ。「私が大切にしているのは『これは本当にやりたいことなのか』と自分に問いかけること。リスクが存在することによって自分がやりたいことがより鋭く見えてくることもあるんですよ」。もちろん危険を冒さずに安全な人生を送ることもできるだろうが、それでは最高の自分を投じることにはならないから、結果的に大きな価値も生まれてこない-と、ラマは意に介さないそうだ。

 実は登山をしない人にも見てもらいたい映画だと強調する。「セロトーレだけではないですが、山という過酷な環境に置かれると、自分のすべてが暴かれたかのような体験をする。何と言ってもすべての選択がすぐに結果に結びついてしまうのだから。言い換えれば、それは自分をより知る機会にもなります。映画をみることで、漫然と過ごしてきた日常生活のあり方を考え直すきっかけにもなると思うのです」。8月30日から全国順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS

 ■David Lama 1990年8月4日、オーストリア・チロル生まれ。世界的に著名なアルピニスト。2004~05年、ユースクライミング・ワールドチャンピオン。06年、ヨーロッパチャンピオン(リード)。07年、ヨーロッパチャンピオン(ボルダリング)。08年、ワールドカップ総合優勝(リード&ボルダリング)。13年4月、アラスカのムースズトゥース「バード・オブ・プレイ」ルートに初登頂。

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