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【軍事情勢】米独諜報摩擦で気になる英諜報機関の「役どころ」

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【軍事情勢】米独諜報摩擦で気になる英諜報機関の「役どころ」

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 CIA=米中央情報局在ドイツ代表の退去を求めた独政府は米国に加え、なぜか英国間諜への国内監視を強化している。独首相の携帯電話盗聴、独連邦情報局=BND機関員や独国防省職員からの情報取得を実行したのは米諜報機関だったはず。英諜報機関の「役どころ」に、小欄は大いに興味がある。

 97年前に遡る「師弟関係」

 BNDや防諜専門の独憲法擁護局が、米諜報機関の背後に英諜報機関が潜んでいると考えるのは当然だった。英政府通信本部=GCHQと英秘密情報局=MI6は今回対独諜報活動を行った米国家安全保障局=NSAとともに、2009年のロンドン金融サミット(G20)で、各国代表団の電話や電子メールを極秘傍受していた前歴もある。

 英米はドイツやフランスと、銀行経営者の高額報酬規制をめぐり対立していた。諜報の世界で、英国は米国の師匠筋に当たる。NSAの専売特許の如くいわれる、何億件ものインターネット上の情報を収集→電話番号/住所/IPやメールのアドレス/フェースブックIDを足掛かりに必要情報を掌握する《総取り》にしても元来、GCHQが編み出した荒業だった。英米「諜報師弟関係」は第一次世界大戦中の1917年、ドイツが発信した一本の暗号電報が英国を救う、衝撃的一大諜報事件にまで遡る。

 アルトゥール・ツィンメルマン独外相(1864~1940年)はこの年、メキシコ政府に暗号電報を急送した。

 《米国が大戦に参戦するなら、ドイツはメキシコと同盟を結ぶ。メキシコの対米先制攻撃をドイツが支援。ドイツが大戦に勝てば、米墨戦争(1846~48年)で米国に奪われた米3州をメキシコに返還する》

 だが、英海軍省暗号解読部=40号室は独暗号電報を傍受・解読していた。既に英海軍では、植民地や工業力を活用し貿易を行う商船隊の保護に向け1883年に対外情報委員会が存在(87年海軍情報部に改組)した。日本はその頃、重要外国人を接待する鹿鳴館を建設し、いまだ欧化主義をひた走っていた。

 米国を参戦に誘った解読

 話を戻す。当時米国は欧州での国際紛争に関与しない孤立主義を堅持し、3年近くも前に始まった大戦への参戦を躊躇。和平仲介に意欲を示していた。

 中立国の証しとして、米国は自国通信網の独利用を許可。独通信を盗み見しない旨、ドイツに打診していた。米国の暗号解読技術レベルは低く、英海軍による独海底通信ケーブル切断もあり、ドイツは秘匿すべき外交電報まで米通信網を利用した。

 独暗号電報はドイツ→中立国デンマーク→英国の各米大使館を経由。英米間の海底ケーブルを通り米国に至る。40号室はロンドンで独電報を常時監視していた。その後は、商用電信を通じて在米独大使館→在墨独大使館という流れをたどる。

 英国は米国へ通報し、米国を怒らせ、参戦を促す大戦略を実現させなければならなかった。ところが、英国は友好国・米国への通信傍受発覚を恐れた。そこで在米→在墨両独大使館間の商用電信に着目。墨電信局保存の写しを間諜に入手させ、米国に提供する。斯くして、米国は最終的に参戦へと舵を切る。

 ドイツは暗号を複数開発し安全を担保したが、前述の商用電信は中東諸国に対英宣戦布告するよう工作中の独外交官が1915年、敗走する際に置き忘れた外交暗号コードブックを元に組み立てられていた。独大使館は鹵(ろ)獲(かく)された暗号を継続使用する致命的ミスを犯したのだ。このほか▽独商船の商業暗号を取得した豪州海軍陸戦隊より授受▽独巡洋艦を沈めたロシア海軍経由で独軍捕虜所有の海軍暗号表を入手▽英トロール漁船が引揚げた独潜水艦(沈没)の金庫内で、各国駐在独武官への打電時に使う海軍暗号表を発見-など《コミュニケーション・インテリジェンス=コミント=通信情報》戦で、ドイツは英国に完敗していた。

 米国の参戦理由は、ツィンメルマン電報だけではない。英船籍ルシタニア号が15年、独潜水艦の雷撃で沈没。米国人128人も犠牲になった。ルシタニア号沈没→ツィンメルマン電報という流れは、憤激を募らせていく米国を参戦へと誘う。戦局で青息吐息の英仏が敗ければ、貸し付けていた莫大な戦費が回収不能になる経済危機も目前だった。

 英国が手掛けた「脚本」

 ただしツィンメルマン電報同様、ルシタニア号沈没も「脚本」は英国が手掛けたと思っている。ルシタニア号出航前、在米独大使館は米紙に広告を出し、潜水艦による対敵性船舶無制限攻撃を警告。海軍相ウィンストン・チャーチル(1874~1965年)は危険を知っていた。だのに、英海軍の護衛もなく悲劇を呼び込む。傍証がある。

 第二次大戦(1939~45年)でも、独暗号機エニグマを、40号室と英陸軍諜報部第1課が統合して誕生した政府暗号学校(GCHQの前身)が解読。首相チャーチルは独軍による爆撃も事前につかんでいたが、標的の自治体に警報を出さず、犠牲を払ってでも解読を偽装している。

 諜報の脆弱性を思い知った米国は、英40号室などの支援を受け第一次大戦参戦後、通信傍受・暗号解読部門を拡充。第一次大戦後に主任務となる対日暗号解読の技術を確立し、諜報大国にのし上がる。今次ドイツを怒らせたNSAは末裔だ。

 英米は第二次大戦中の40年、通信傍受・暗号解読協力協定を結ぶが、英国は42年になっても米暗号を解読し続けたというから凄まじい。「英国流」を学習した米国も、国連創設を討議した45年のサンフランシスコ会議で、連合国向け盗聴を行った。米ニュースサイト《ザ・インターセプト》の報道(8月)によると、NSAは《対米スパイ活動を行っている国》の内《最も脅威レベルが高い国》としてイスラエル/韓国/フランスなど同盟・友好国を含む10カ国を指定した。まともな情報機関もスパイ防止法もなく、特定秘密保護法で批判が出る日本と、ドイツは10カ国には入っていなかった。

 しかし独BNDは、総合力で米CIAをしのぐ米国防総省国防情報局=DIAにまで情報提供できる実力を有す。2代にわたり米国務長官の通話を盗聴してもいる。米国による“諜報被害”を逆手に、米国にどんな情報提供を強制したのだろう。

 わが国は、国家に大きな災いをもたらす諜報世界の「清純派」に決別しなければならない。(政治部専門委員 野口裕之)

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