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娘の視点で母を描くことは重要 ドキュメンタリー映画「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」 ステファニー・アルゲリッチ監督に聞く
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「女性の生き方を考える参考にしてもらえればうれしい」と語るステファニー・アルゲリッチ監督=2014年5月8日(ショウゲイト提供) アルゼンチン生まれの天才ピアニスト、マルタ・アルゲリッチ(73)の素顔に肉薄したドキュメンタリー「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」。マルタの三女、ステファニー・アルゲリッチ(39)が監督を務めたからこそ誕生した得難い作品だ。繊細で、気難しく、仕事場ではどこか近寄りがたいオーラを体全体から発してきたマルタが、映画の中では警戒感を解き、ノーメークといった隙だらけの姿をさらけ出し、芸術、恋愛、複雑な家庭-について本音で語ってしまうところが実に面白い。
SANKEI EXPRESSのメール取材に応じたステファニー監督は「母のプライベート映像を昔からよく撮影していました。最初はドキュメンタリー映画にしようとは夢にも思っていませんでしたが、私は第一子を出産して親となり、時間の流れが気になるようになりました。人は誰もが老いるのだと。そう考えたときに、母は有名なピアニストであると同時に、一体どんな人なのか-を娘の視点で描くことは重要だと思いました」と、映画化を決意するきっかけを説明した。
厳密に言えば、本作は母と娘の物語と言っていい。ステファニー監督はマルタに質問をぶつけ本音を引き出すことによって、自分とは何か-と自己存在の確認もしているのだ。とにかく家庭が複雑過ぎた。ステファニーは三女だが、姉妹はそれぞれ父親が違うだけに、マルタ、姉、3人の父親に対しては受け止めきれないほど、ややこしい思いが交錯してしまうのだ。「母の華麗なる足跡の紹介を映画に期待した方は、きっとがっかりするかもしれませんね」
ステファニー監督は作中、マルタと3姉妹が仲良くピクニックに出かけるシーンを挿入し、一つの家族のあり方として提示してみせた。この映画を作ったことでマルタとの関係に何か変化は生じたのだろうか。「変化はありません。心理的な距離はずっと近かったわけですしね。母に抱いたもろもろの感情を映画という形で外に放出させ、すっきりさせた。今の私には爽快感しかありません」。マルタも編集段階で映像を見たマルタは、ステファニー監督に何も注文を出さなかったそうだ。
作中には若きマルタの演奏シーンなど貴重なアーカイブ映像も満載だ。「映像からは『女性が社会でどんな役割を果たすべきか』と大勢の人々が考えた時代の空気が垣間見えます。映画では時代をリードしてきた母がそんな時代を生きてきたんだと伝えることもできました」。若い視聴者に古くて新しい問題も問うている。東京・Bunkamuraル・シネマなどで公開中。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS)