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多様な感性が生む世界観、進化 パスピエ
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2009年に結成された5人組のバンド、パスピエは、11年に発表した最初の音源からユニークなバンドという印象だった。エレクトロなサウンドを基調とし、独特の展開で曲が進んだり、はたまた演奏のグルーブを聴かせるファンキーな楽曲があったりと、聴くものを楽しませてくれる。最新作の「幕の内ISM」は、そんなバンドの進化と真価を聴かせてくれる作品に仕上がった。
初期のころ印象的だった電子音よりも、バンドの個々の楽器の生音が前に出て、演奏そのものの力強さが特徴的に聴こえてくる。リーダーの成田ハネダは「アルバム全体では、このバンドの持つ『和っぽさ』を表現したいと思ってました」と言い、作詞とボーカルの大胡田なつきはそれぞれの楽器の音からインスパイアされたという言葉遣いを盛り込んでいる。「雅」「うつせみの世で」などの歌詞にも注目してほしい。
個々のメンバーの音の絡み合いが絶妙な楽曲もあり、エレクトロポップなバンドというイメージだけでは語りきれない音世界がある。
成田は「電子音的なアプローチの印象が薄まったように感じるのは、バンド全体のスキルアップが影響していて、自然にこういった変化をもたらしたと思います。さらに昨今はやっているエレクトロなロックをそのままやるのではなく、自分たちの持つ音楽性の豊かさをしっかりと反映させた作品に仕上げたかった、という狙いがありました」と振り返る。
東京芸術大学出身の成田は、ピアニストとしてクラシックの素養がありながらも、くせのあるトリッキーなキーボードのフレーズを弾く。絵の才能を持つ大胡田は、以前からミュージッククリップやジャケットデザインを担当してきて、シンガーというよりアーティストという感性を持つ。
そんな多様な感性やバックボーンがあるにもかかわらず、「ポップスというくくりの中でどれだけ自由に音楽を作れるかに興味がある」と成田は言う。アレンジが独特で、大胡田の書く歌詞もどこか不思議な言葉選びだったりするのだが、メロディーのポップス感やなじみの良さはこのバンドの個性をしっかりと丸く包み込み、たくさんの人に届く曲として昇華させている。
唯一無二でありながら誰もが楽しめるというポップスの特徴を見事にとらえて実践しているバンドだ。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)