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バーチャルからリアルへ昇華 米津玄師
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音楽アーティスト、米津玄師(よねづ・けんし)さん(提供写真)
ヤマハが開発した音声合成技術によって、メロディーと歌詞を入れれば人間の声をもとにした歌声を合成できるソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」。自分が歌わなくてもパソコン上で曲が生み出せるこのソフトを使って楽曲を発表し、再生回数を伸ばしている作成者の何人かは、実際に自分の声で歌ってデビューしたり、演奏メンバーを募集してバンドを結成する動きも出ている。
その中の一人が米津玄師(23)である。「ハチ」という名義で2009年からネットにオリジナル曲を投稿し始め、9作品で動画再生回数が100万回を突破。総再生回数は2000万回を超えるという。そんな彼は、本人名義で音楽活動をするようになったきっかけについて、「一人で音楽を作ることが少し退屈になってきたことと、やるべきことを後回しにしているような、後ろめたさが自分の中に混在していて、一度ボーカロイドというアイコンから離れざるを得なかった」と振り返っている。
一昨年5月に発売された1枚目のアルバムでは楽曲のすべてを自分で手掛け、イラストからアニメーション動画までも自分で制作した。曲は違っていても、もともとボーカロイドでやっていたことを自分で再現したとも考えられる。これに対し、23日に最新作としてリリースされる2枚目は、バンドスタイルでのレコーディングを取り入れ、外部プロデューサーとも手を組んだ。今までとは大きく違うスタイルで作られた作品だ。
制作時には「極彩色というイメージと、聴いた人が希望を持てるものを作りたい」と思っていたそうだ。さらに詞に関しては「分かりやすく、多くの人の懐に入り込めるようなものにしたかった」という。
生のバンドで録音されたこのアルバムは、それでも米津玄師特有の、バンドのセオリーだけにとどまらないデスクトップミュージック世代の新しい音世界やアレンジが印象的だ。
自分一人で作ったものを誰かに聴いてもらいたい、という気持ちにボーカロイドは応えてくれた。そして今、生身の人間とコミュニケーションをとりながらスタジオに入って録音するという醍醐味が、新しいフィーリングとして作品に昇華された。彼にしか描くことができないリアルとバーチャル、どちらの音楽好きにも届くオリジナリティーあふれる作品である。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)