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【佐藤優の地球を斬る】加藤前ソウル支局長と往復書簡 近代国家と思えぬ法の運用 鮮明に
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産経新聞ソウル支局内で仕事をする加藤達也前ソウル支局長=2014年10月5日、韓国・首都ソウル(桐山弘太撮影) 10月1日と18日のこのコラムにも記したが、産経新聞社の加藤達也前ソウル支局長が、韓国政府当局によって極めて不当な取り扱いを受けている。何をなすべきかといろいろ考えたが、加藤さんと往復書簡を行い、問題を広く世論に訴えることにした。往復書簡は11月7日付産経新聞に掲載されている。
筆者は、<加藤さんが現在置かれている状況は、「文学的」だと思います。古くはドイツの作家フランツ・カフカの小説『審判』(1914~15年執筆)、比較的最近ではアルバニアの作家イスマイル・カダレの小説『夢宮殿』(81年)を彷彿させるような不条理な状況に置かれています>とした上で、以下の質問をした。
<この問題は、韓国の国家権力が加藤さん、産経新聞に対してかけた弾圧にとどまらず、日本のマスメディア、記者、「もの書き」全員(そこには私も含まれる)に対する挑発と思います。
加藤さんを起訴したことによって、韓国は報道の自由を保障できない国際基準での標準的価値観を共有できない国であるという認識が拡大します。韓国の政治エリートにこのような現実が理解できないはずがありません。もっともわれわれから見て、理不尽にしか思えないこの出来事にも、韓国の現政権にはそれを必要とする内在的論理があると思います。日本と韓国は、自由、民主主義、市場経済という価値観を共有する国です。それにもかかわらず、なぜ韓国検察がこのような理不尽な対応をしたのでしょうか。是非、加藤さんの見立てをお聞かせ願いたいです>
加藤さんから早速、返信をいただいた。そこにはこう記されていた。
<私のコラムについて8月5日、大統領府の海外メディア担当の報道官が民事・刑事での法的措置を通告してきました。6日には、検察が告発状を受理しました。政府関係者やメディアの多くはこれを、「朴大統領への忠誠心を示すものだ」と感じたといいます。
その後、8月に2度の出頭をすると国際世論が韓国を激しく批判しました。
韓国政府や法務・検察当局に太いパイプを持つ法曹関係者によると、大統領府はこの時点でなお検察に呼び出して揺さぶれば産経は謝ると読んでいたというのです。しかし、謝罪も訂正記事も引き出せず、事態を収拾することもできなかった。
最後の取り調べとなった10月2日、ソウル中央地検の担当検事は私に大統領府との和解について確認し、私が具体的な動きがないことを伝えると失望していました。検察は、大統領本人はおろか、その周辺に「処罰意思の有無」を確認することもできなかったのです。
法的対応を宣言したものの、事態収拾もできない大統領府、そして大統領府に対してものが言えない検察…。今回の在宅起訴は、朴政権の本質の一端をのぞかせたのではないか-。それが背景ではないか、と思います>
加藤さんの返信によって、事態の深刻さ、韓国当局の乱暴さがより鮮明になった。韓国検察が<大統領本人はおろか、その周辺に「処罰意思の有無」を確認することもできなかった>というのは、論外の話だ。「被害者」とされる人物の処罰意思の有無を別に起訴できるというならば、韓国の名誉毀損(きそん)はむしろ不敬罪に近いものになる。近代国家とは思えない法の運用だ。
こういう問題の処理にあたっては原理原則が重要だ。産経新聞社も加藤さんも、記者として国際基準で認められた規範に従って、通常に業務を行っただけである。悪いことをしたわけでないのだから、加藤さんは公的にはもとより指摘にも謝罪する必要は一切ない。筆者は今後も加藤さんと産経新聞を応援する。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)