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【アメリカを読む】中国を封じ込めないと約束したオバマ氏
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中国・首都北京市周辺地域 バラク・オバマ米大統領(53)は中国、ミャンマー、オーストラリアへのアジア歴訪で、政権が掲げる「アジア・リバランス(再均衡)」を残り2年の大統領任期で外交政策の基軸とすることをアピールした。しかし、オバマ氏と中国の習近平国家主席(61)が北京で行った首脳会談で浮かび上がったのは、米国が本気で中国の軍事的な台頭に立ち向かうつもりがあるのかという疑念だ。
米中首脳会談の直後、ワシントンの国立公文書館ではリチャード・ニクソン元大統領(1913~94年)による72年2月の電撃訪中を振り返るシンポジウムが開かれた。
「中国は約4000年にわたるナンバーワンの座から『帰ってきた大国』であり、経済力、軍事力、外交力を増した中国をいかに既存の大国と関わらせるかが2000年に入ってからの課題であり続けた。米中は世界で最も複雑な関係だ」
オバマ氏の訪中に関してこう述べたのはウィンストン・ロード元駐中国大使(77)だ。「ニクソン訪中」に先立つ71年7月、当時のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(91)による秘密訪中にも、米国家安全保障会議(NSC)のスタッフとして同行した。
米国の対中外交に深く関わってきたロード氏は、冷戦期にニクソン氏が旧ソ連と対抗するために中国と接近したのを皮切りに79年1月に国交を樹立し、89年6月の天安門事件の後に関係改善を図った経緯を「10年ごとに進化してきた」と説明した。
オバマ氏は米中という「複雑な関係」をどう進化させていくつもりなのだろうか。
オバマ氏は12日、習氏とともに北京で行った共同記者会見で、中国と敵対する意図がないことを強調した。
「首脳会談は、米国の(アジアに軸足を置く)ピボット政策が中国を封じ込めるためのものであるという考えが事実誤認だと証明する機会になった」
香港での大規模デモへの対応、中国の人権状況といった米中の「相違点」についてオバマ氏は一通りの懸念を表明したものの、むしろ温室効果ガスの削減目標値の設定や偶発的な軍事衝突を避ける相互連絡システムの構築などの「一致点」に力点は置かれた。
中国による東シナ海や南シナ海での領有権主張に対しても「米国として立場は取らない」と断り、航行の自由の尊重や国際法に基づく紛争の平和的解決を訴えただけだった。
台湾については「『一つの中国』政策に強く関与していることを再確認する」と強調。「チベットは中華人民共和国の一部である」とも付け加えた。
習氏は、共同記者会見で中国が外国報道機関への報道ビザ発給を規制している問題をただした米紙ニューヨーク・タイムズ記者に「車が道で故障したとき、車から降りてどこに故障があるかを調べる必要がある。問題が起きたところには理由がある」と“説教”するなど自信満々の様子だった。香港の大規模デモに関しても「内政問題であり外国が干渉すべきではない」と、オバマ氏を牽制(けんせい)した。
米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デビッド・イグナチウス氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でのオバマ、習両氏の様子を次のように評した。
「中国が大国の地位に到達し、その指導者が米国の大統領と並び立ったというメッセージを送った」
米中首脳会談での合意内容は、今年9月のスーザン・ライス米大統領補佐官(50)=国家安全保障問題担当=による訪中などを通じて綿密に準備が進められた。
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、国防当局間の協議では排他的経済水域(EEZ)で認められる軍事行動の種類に関する取り決めを模索したが見送られた。軍事訓練を認めるよう求めたところ、中国側が拒否したためだという。南シナ海での「核心的利益」は侵させないという頑なさは変わっていない。
中国が「新型大国関係」(習氏)という実利だけを米国から得て、周辺国との摩擦を引き起こす行動パターンを変えないのだとすれば、オバマ氏がいう「平和で安定した中国の台頭」は絵に描いた餅で終わる。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)