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「戦略はまだない」率直すぎるオバマ発言
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イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」をめぐる構図=2014年9月8日
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が2人目の米国人ジャーナリストを斬首殺害したことで、米議会でイスラム国の「壊滅」を求める声が強まっている。イラク、シリアの国境を無視して勢力を拡大するイスラム国を打倒するにはシリアでの軍事行動が不可欠だが、バラク・オバマ米大統領(53)の戦略目標はどこにあるのだろうか。
あまりにも率直すぎるオバマ氏の発言で、米国ではイスラム国への対処方針をめぐる論争が巻き起こっている。8月28日、ホワイトハウスでの記者会見でシリア空爆に関して米議会の承認を求めるかと問われ、オバマ氏は次のように答えた。
「議会との協議を続けることは重要だが、本末を転倒させたくはない。われわれは戦略をまだ持っていない」
オバマ氏の「戦略なし」発言があったのは、イスラム国が8月19日に米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏(40)の殺害映像を公表した9日後。その5日後の9月2日にスティーブン・ソトロフ氏(31)殺害の映像が公表された。撮影された場所は明らかになっていないが、2人ともシリアで消息を絶った。
米国人を標的にしたイスラム国の残虐行為が明らかになったことで、米議会では野党共和党を中心に、シリア領での空爆や、イスラム国に対抗する穏健な反体制派勢力への軍事支援を求める動きが活発化している。
オバマ政権はフォーリー氏の殺害後、シリアでの空爆を検討していることを明らかにした。英南西部ニューポートで開かれていた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせて、米国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアなど10カ国を中核とする「有志連合」を9月下旬の国連総会を目標に発足させることも決まった。
イスラム国をスンニ派の「過激派」と位置付けることで、サウジアラビアなど湾岸のスンニ派諸国との共闘も模索し、包囲網は形作られつつある。
オバマ氏は、アフガニスタンで国際テロ組織アルカーイダを隣国パキスタンとの国境に押しやり、パキスタンに潜伏していた首謀者のウサマ・ビンラーディンを殺害した作戦をイスラム国に対しても踏襲しようとしているとされる。
問題は、無人機による空爆などでぎくしゃくしながらも「対テロ」という観点からは協力関係にあったパキスタンと違い、米国はシリアのアサド政権と敵対していることだ。
米政府は、シリア内戦でバッシャール・アサド大統領(48)と戦う穏健な反体制派勢力に訓練を施す計画を持っているが、オバマ政権の高官はAP通信に対し、シリア国内で信頼に足る陸上部隊を創設するのが狙いであると明かした。
昨年9月、自国民に化学兵器を使ったとされるアサド政権への空爆を断念したオバマ氏が、イスラム国と同時にアサド氏をも葬り去ろうとしているのだとすれば、穏健派への軍事支援で長期的な取り組みが必要になる。一方、米軍による空爆は、「許可なく攻撃すれば侵略行為とみなす」と警告するアサド氏が最低でも黙認する形を作らなければ効果は上がらない。
シリアのアサド政権をどう扱うかによってイスラム国への対処方針は大きく異なってくる。「軍事より外交」を旨とするオバマ政権の「戦略」は正念場を迎えている。
オバマ氏が、イスラム国やウクライナへの対処で、NATOなどとの集団行動を実現することで、国際秩序を米国の一極体制から「多極化」させることを目指しているのは間違いない。
2012年大統領選でオバマ氏に敗れた共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(67)は5日のワシントン・ポスト紙で異を唱えた。
「米国以外の『極』がオーストラリア、カナダ、フランス、英国ならば私も同意する。だが、中国、ロシア、イランが『極』になるとすれば、世界が平和になることはないだろう」
ロムニー氏は、だから強い米国の軍事力が必要だと結論付けている。アジアではなお米軍のプレゼンスが必要だ。イスラム国への有志連合も、米国が核にならなければ成功しないだろう。中東におけるオバマ氏の「実験」の行方は、中国の軍事力膨張にさらされている日本の国益にも直結する。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS)