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ピークに達した大統領と共和党の対立

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ピークに達した大統領と共和党の対立

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イスラエル・首都エルサレム。イスラエル・ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区とパレスチナ自治区ガザ地区  【アメリカを読む】

 イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスによる攻撃の応酬が激化し、米中戦略・経済対話が前進なく終わった7月10日、バラク・オバマ米大統領(52)は南部テキサス州にいた。ワイシャツを腕まくりして臨んだ演説で舌鋒鋭く野党共和党を批判するオバマ氏の周りにだけ、世界と違う時間が流れているようだった。

 訴えるって、ホントか?

 「議会に不満を持つ皆さんに、何が問題かをはっきりさせようじゃないか。もう大統領選に出る必要がないから、思い切って言えるんだ」

 オバマ氏はテキサス州オースティンでの演説で、最低賃金の引き上げや包括的な移民制度改革に関する自らの提案を進めようとしない連邦議会の共和党指導部を強くなじった。

 下院の過半数を共和党が握る「ねじれ」状態の中、オバマ氏は大統領令を多用せざるを得ない。共和党のジョン・ベイナー下院議長(64)がこれを職権乱用だとして、訴訟を起こす意向を表明したことを取り上げたくだりでは、興奮のあまり声が裏返った。

 「彼らは『大統領を訴える』『弾劾する』という。ホントか? 私が仕事をしていることを理由に訴えるというのか」

 オバマ氏は今年1月、「今年を行動の年とする」という施政方針を示した一般教書演説で、議会による立法を経ず、大統領令などの手段を使って最低賃金引き上げなどの中間層支援に取り組む考えを表明して共和党指導部を挑発した。大統領と共和党の対立はここへきてピークに達した感がある。

 カトリーナ・モーメント

 オバマ氏はテキサス州訪問に際し、メキシコと接する南西部国境を視察しなかった。中米のホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルから不法入国する子供たちが急増し、社会問題化している最前線だ。

 共和党が「オバマ氏がいう『人道上の危機』の視察を拒否したのは不可解だ」(テキサス州選出のジョン・コーニン連邦上院院内幹事)と批判。与党民主党からも、オバマ氏にとって致命的な転機である「カトリーナ・モーメント」になるとの指摘が出ている。

 2005年8月に南東部を襲った大型ハリケーン「カトリーナ」で、当時のジョージ・ブッシュ大統領(68)による視察の遅れが失点となったことになぞらえたものだ。ただ、オバマ氏は形式的な視察には意味がないと考えているようで「(メディア向けの)写真撮影機会には関心がない」と批判に反論した。

 政権は不法移民の市民権取得に道を開く包括的な移民制度改革を目指しており、共和党は中米諸国で生じている「いま入国しておけば市民権が取得できる」との誤解が不法入国の急増につながったと主張している。取り締まりの現場を視察しても、デメリットこそあれメリットはないと計算したのだろう。

 オバマ氏はこのほど不法移民への緊急対策のため米議会に37億ドル(約3750億円)の予算を要求し、膠着(こうちゃく)状態にある移民制度改革関連法案が成立しなくても行政府の判断で移民対策に取り組む姿勢を明確にした。

 決められない政治

 移民制度改革、同性婚への支持、最低賃金引き上げといったリベラル色の強い政策を進め、あえて共和党との溝を広げているオバマ氏。最近の世論調査で、その狙いの一端を推し量ることができる。

 民間調査会社ピュー・リサーチ・センターが6月に発表した世論調査によると、自らを一貫した保守派、リベラル派であると答えた回答者は20年前の1994年の10%から21%に増加した。民主党支持者は20年前に比べよりリベラル、共和党支持者はより保守に位置付けられた。調査はこれを「二極化」を裏付けるものと説明している。

 オバマ氏が民主党支持者がよりリベラル化しているという認識を持っているとすれば、議会での共和党との合意形成よりも対立を選ぶのは合理的な選択ということになる。

 ただ、ワシントン・ポスト紙でこの調査を「二極化していない」と批判したスタンフォード大のモリス・フィオリナ教授が指摘するように、民主党内の保守派、共和党内のリベラル派が20年前に比べて減った結果と見た方がいい。別の世論調査では、両党を支持しない無党派層が過去最高を記録している。

 4割程度というオバマ氏の低支持率の一方で、議会の信頼度も6月のギャラップ社調査で過去最低の7%となった。政争が激化する中で「決められない政治」への不満が高まっている。(ワシントン 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS

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