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【イラク情勢】イラク過激派拠点 シリアが空爆 「ねじれた戦線」 米に危機感

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【イラク情勢】イラク過激派拠点 シリアが空爆 「ねじれた戦線」 米に危機感

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 米国のジョシュ・アーネスト大統領報道官は6月25日の記者会見で、シリアのアサド政権がイラク領内のイスラム教スンニ派過激組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が占拠する地域を空爆した可能性があると指摘した。AP通信は25日、米政府やイラク軍の当局者の話として、シリアとの国境に近いイラク西部カイムが空爆され、17人が死亡したと報じた。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルも25日、ISILが支配するイラク西部ルトバがシリアにより空爆されて行政庁舎や市場が被害を受け、少なくとも50人が死亡、132人以上が負傷したと伝えた。

 ISILはシリア内戦で自由シリア軍やイスラム系のヌスラ戦線などとともに反政府武装勢力の一角を占め、最大の武装勢力に成長。ISILはイラクとシリアを一体の地域と見なし、戦闘やテロ継続のために両国国境を無視して往来することから、アサド政権としてはISILのイラク側の拠点をたたく必要もあった。

 一方、AP通信によると、シーア派主体のイラクのマリキ政権を支援するイランは偵察用の無人機をイラク上空に飛ばし、情報収集活動を本格化。イラク軍との協力を強化しているという。(ワシントン 加納宏幸/SANKEI EXPRESS

 ≪「ねじれた戦線」 米に危機感≫

 混迷するイラク情勢に隣国のイラン、シリアが介入の動きを強めている。イスラム過激派の攻撃にさらされるイラクを米国が敵対関係にあるイラン、シリアと共に支えるねじれた状況で、混乱拡大をどう防ぐのか。絡み合う利害関係を切り分けるのは容易ではなく、米国は危機感を募らせている。

 共闘態勢築くイラン

 バラク・オバマ米大統領(52)は6月19日、イスラム教スンニ派過激組織「ISIL」と戦うイラク軍支援のために最大???人の軍事顧問団の派遣を表明、第1陣の約90人が24日、バグダッドに到着した。しかし、現地では一足先にイランの革命防衛隊がイラク軍との共闘態勢を築き始めていた。

 シーア派国家のイランにとって、シーア派主導のイラクのマリキ政権の存続は周辺のスンニ派諸国と対抗する上で死活問題。米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランはイラク軍への助言のため、革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の要員十数人を派遣、毎日2便の輸送機で軍事物資を送っている。

 イラン外務省報道官は否定したものの、バグダッドの飛行場を拠点に無人偵察機も飛ばしているとされ、米軍はイランと「呉越同舟」の状況でイラク軍支援策を探ることになる。

 さらに、イランと盟友関係にあるシリアのアサド政権が24日、イラク領内のISIL拠点を空爆し、スンニ派住民に多数の死傷者が出たもようだ。

 ISILはシリア内戦で台頭、今月(6月)に入りイラク北部の支配地域を急拡大させた。敗走したイラク軍の武器を大量に入手し、国境を自由に往来。イラク、シリアの混乱は一体化が進み、中東全体に波及する懸念も出てきた。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、イラク国境近くにはイラン軍?師団規模が集結。イラク情勢をめぐりイランとの対話に意欲を示していたジョン・ケリー米国務長官(70)は25日、訪問先のブリュッセルで「宗派対立の発火点となるようなことが起きてはならない」と述べ、シリアとイランの動きがイラク国内のシーア派とスンニ派の対立に拍車をかけかねないとして、強く牽制(けんせい)した。

 首相に退陣促す

 同時にケリー氏は「真空を埋めようとする外部の力なしでイラクを守るには、新政府の樹立が急務だ」と語った。シリアとイランによる過度のイラク介入にクギを刺すと同時に、イラクのヌーリー・マリキ首相(62)に対して暗に退陣を促した形だ。

 イスラム教シーア派主体のマリキ政権に代え、スンニ派やクルド人との挙国一致政府を発足させれば、宗派対立に加担することなく支援を行うことができるというのが米政府の発想だ。

 ただ、マリキ氏はこれに先立つ25日、退陣を明確に拒否。米国が新政権への移行を視野に入れているのに対し、マリキ氏はイランやロシアの支持で意を強くしているとみられる。

 ケリー氏は26日、パリでサウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダンの外相と会談。27日にはサウジアラビアを訪れ、アブドラ国王と「共通の脅威であるISILへの対抗策や、シリアの穏健な反体制派への支援を話し合う」(ケリー氏)としている。3カ国はいずれもスンニ派が中心で、オバマ氏が掲げる「国際協調主義」に基づき、イラク政府に外交圧力をかける狙いがあるとみられる。

 一方、米議会からは「シリアのISILを空爆して指導者に損害を与えれば、イラク情勢も変わる」(共和党のリンゼイ・グラハム上院議員)との強硬論も浮上してきた。(SANKEI EXPRESS

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