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米とイラン「呉越同舟」 イラク対応で協議

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米とイラン「呉越同舟」 イラク対応で協議

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 ≪イラク スンニ派武装組織が攻勢、中部ファルージャでヘリ撃墜≫

 米国、イラン両政府の高官が6月16日、ウィーンで始まったイラン核協議の場を活用し、イスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が攻勢を強めるイラク情勢について協議した。

 米国務省当局者は協議に先立ち、イラクの宗派対立への関与を自制するよう求めると述べた。ジョシュ・アーネスト大統領副報道官(37)は16日、イランとの協議について(1)核協議とは完全に切り離す(2)軍事的な調整は行わない(3)イラクの将来について議論することはしない-の3点を記者団に強調した。国防総省のジョン・カービー報道官も「イラクでの軍事行動をめぐりイランと調整する計画はない」と述べ、軍事協力を否定した。

 一方、バラク・オバマ米大統領(52)は16日、首都バグダッドの米国大使館や館員の安全確保のため、米軍の要員を最大約275人派遣することを決め、議会に書簡で通告した。大使館には約5000人のスタッフが勤務している。

 書簡によると、米軍は大使館員がイラク国内の総領事館などに退避することを支援。戦闘に備えて武装しており、必要に応じて米市民の保護に当たる。

 CNNテレビなどによると、米国防総省は垂直離着陸輸送機オスプレイを搭載するドック型輸送揚陸艦1隻をペルシャ湾に新たに派遣した。

 イラクからの報道では、ISILはバグダッドの北方約50キロのバアクーバまで迫り、16~17日にイラク軍と激しく交戦した。他の地域でも戦闘が続き、AP通信によると、ISILが支配する中部ファルージャでは16日、イラク軍のヘリコプターが撃墜されて2人が死亡した。(ワシントン 加納宏幸、 エルサレム 大内清/SANKEI EXPRESS

 ≪軍事協力は否定 情報確保狙う米≫

 米国が1979年の米大使館占拠事件以来、国交を断絶しているイランとの間でイラク情勢をめぐる協議を始めたのは、米軍がイスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」への空爆に踏み切る場合に備え、イラク国内の実情を把握する必要があるからだ。同時にイラクへの過度の介入を牽制(けんせい)する思惑もある。

 国務省ナンバー2のウィリアム・ジョセフ・バーンズ副長官(58)は6月16日、イラン核協議のためジュネーブに滞在。協議にはイランのモハマド・ジャバド・ザリフ外相(54)が出席しており、ロイター通信によると、オバマ大統領が協議を命じた場合に備えてバーンズ氏が派遣されたという。

 2011年の米軍のイラク撤退後、米国は過激派組織の動きなど地上の動向に関する情報が得にくくなっており、協議ではイラクのマリキ政権と関係が深いイランに情報提供を求めた可能性がある。イランに対し、シーア派主導のマリキ政権に宗派的な事情から肩入れすることのないよう自制を促す狙いもあった。

 ただ、米政府はイランとの接触は認めたが、バーンズ、ザリフ両氏によるものかは明らかにしていない。ケリー国務長官がイランとの軍事協力を「排除しない」と述べたことも、米政府はただちに否定した。

 「イランがイラク情勢でパートナーになりうると信じるなら愚の骨頂だ」(共和党のマケイン上院議員)といった米議会の批判に配慮したとみられる。(ワシントン 加納宏幸/SANKEI EXPRESS

 ≪イラク介入の「お墨付き」欲しいイラン≫

 イスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の攻勢が続くイラクに対し、隣接するシーア派大国イランが関与を深めている。米国とイランの当局者がウィーンでイラク情勢をめぐって協議した6月16日には、イランの精鋭部隊幹部が首都バグダッドに入ったとの報道も出た。イランは今回の危機を、イラクでの影響力保持に向け米国から“お墨付き”を引き出す好機ととらえているようだ。

 AP通信は16日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官がバグダッド入りし、作戦司令室を設置したと伝えた。司令官は、ISILが攻撃対象に宣言しているシーア派の聖地カルバラやナジャフも訪問。作戦司令室では、反攻作戦の洗い直しや、イラク政府軍やシーア派民兵との連携が検討されているという。

 コッズ部隊は主にイラン国外での工作を担っており、内戦下のシリアでは同盟関係にあるアサド政権を支援しているとされる。

 シーア派大国のイランは2003年のフセイン政権崩壊後、イラク政治の主導権を握ったシーア派勢力を後押しし、同国への影響力を強めてきた。盟主を自任するシーア派勢力圏にイラクを組み込む狙いがある。11年末の米軍のイラク撤退後はマリキ政権がスンニ派排除を進め、シーア派の優位がさらに強まった。

 こうした中、軍事協力は否定しつつも、長く対立関係にあった米国がイラク情勢をめぐりイラン側と協議したことは、イランにとって自国抜きではイラク安定が達成できないと米国が認知したことを意味する。

 ただ、ISILが急速に勢力を伸ばした背景には、シーア派を優遇するマリキ政権に対するスンニ派の不満の高まりがある。ISILに制圧されたスンニ派地域では、政府軍が早々に撤退したのは、政権にスンニ派を守る意思がないからだ-との反発も強いという。

 こうした状況でイランが介入を強めればスンニ派のさらなる反政府感情を呼び、宗派対立を激化させる要因ともなりかねない。(エルサレム 大内清/SANKEI EXPRESS

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