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米空母派遣 イラク空爆へ即応態勢
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チャック・ヘーゲル米国防長官(67)は6月14日、イスラム教スンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の攻勢で緊迫するイラク情勢に対応するため、アラビア海北部に展開中の空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」をペルシャ湾に移動するよう命じた。バラク・オバマ大統領(52)の決断次第で限定的空爆も実施できる即応態勢を整えた形で、今後の動向に注目が集まっている。
ジョージ・H・W・ブッシュには巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できるミサイル巡洋艦フィリピン・シーとミサイル駆逐艦トラクスタンも同行しており、6月14日中にペルシャ湾に配備。空母の艦載機と合わせ、いつでもイラク本土を空爆できる海域への展開を完了したもようだ。
オバマ大統領は13日、数日中にイラク支援策の結論を出すと発表。無人機による限定的な空爆も視野に、軍事行動に踏み切るかどうかの検討を進めている。
ただ、米政府はイラク軍の作戦能力に懸念を持っており、どこまで連携が可能かは不透明だ。オバマ大統領は地上部隊派遣を明確に否定しており、短期間で最も効果的な支援策を慎重に見極めているとみられる。
ただ、攻撃には標的の的確な選定が欠かせない。その前提となる情報収集能力は、2011年の米軍撤退後、大きく落ち込んでいるとみられる。さらに、一般の軍隊と比べて規模や組織性に劣る「イスラム国」の拠点を絞り込むのは至難の業。不用意な攻撃で民間人が犠牲になった場合、米国が厳しい非難を受けることにもなりかねない。
ジョン・ケリー国務長官(70)は14日、イラクのホシヤル・ジバリ外相(60)との電話協議で、「米国の支援が成功するのは、イラクの指導者が違いを乗り越えて国家として団結するときだけだ」と強調。イスラム教シーア派主導のマリキ政権だけでなく、スンニ派やクルド人の権利の尊重が重要と指摘した。
一方、英BBC放送(電子版)は15日、クルド人民兵らの支援を受けたイラク政府軍が、ISILに制圧された数カ所の町を奪還するなど、進撃を食い止めているもようだと報じた。
政府軍は首都バグダッドの北方約120キロにあり、戦闘の前線となるサマラで兵力を増強しており、主要都市ティクリートの奪還作戦を準備しているという。(ワシントン 加納宏幸、エルサレム 大内清/SANKEI EXPRESS)
≪石油都市掌握のクルド人勢力 権益拡大へ虎視眈々≫
イスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の攻勢が続くイラクで、北部で自治権を握るクルド人勢力が虎視眈々(たんたん)と権益拡大を狙っている。シーア派主導のマリキ政権と同様にISILとは敵対関係にあるが、混乱の中で掌握した北部の石油都市キルクークを簡単に手放すとは考えにくく、今後も大きな火種として残りそうだ。
大規模な油田があるキルクークにはアラブ人やクルド人が混在しており、ヌーリ・マリキ首相(63)の中央政府とクルド自治政府は互いに支配権を主張して、小規模な衝突がしばしば発生してきた。
ところが今月(6月)12日、ISILがイラク第2の都市の北部モスルを電撃的に制圧し、南下を始めたのを受けてクルド人部隊がキルクークに展開。政府軍は武器庫などを明け渡し撤退した。
クルド側は「要衝のキルクークをテロリストから守る」ためだと説明する。実際、シーア派民兵を動員するなどしてISILへの反攻に乗り出したばかりのマリキ政権には、キルクーク防衛の余裕はない状態だ。
ISILにはスンニ派主導だった旧フセイン政権関係者も多数協力しているとされ、旧政権時代に虐殺や差別の対象だったクルドとシーア派にとっては「共通の敵」でもある。
その一方で現政権側には、クルドがキルクークの自治区編入を狙っているのではないかとの強い警戒感がある。AP通信によると、マリキ首相に近い国会議員は「キルクークを足がかりに、他の地域ものみ込むつもりだ」と非難した。
クルド自治政府は今年初め、トルコとの間に新設したパイプラインで石油の輸送を開始。すべての石油収入は中央政府が管理すべきだとするマリキ政権と、対立が深まっていた。
クルドは現在、政権側が反攻を進めるイラク中部でISILが放棄した町を掌握するなど、事態収束後をにらんで地歩固めともいえる動きもみせている。政権側が巻き返してISILが後退した場合、政権側との緊張が高まる可能性もある。(エルサレム 大内清/SANKEI EXPRESS)