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イラク危機 米、地上部隊派遣せず

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イラク危機 米、地上部隊派遣せず

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 バラク・オバマ米大統領(52)は6月13日、声明を発表し「イラクでの戦闘には米軍を派遣しない」と明言、イスラム過激派「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が進攻を続けるイラクに地上部隊を送る考えがないと強調した。同時にイラク政府軍を支援する「さまざまな選択肢」を検討していると述べたが、決定には数日かかるとの見通しを示した。

 イラクのヌーリー・マリキ首相(63)は13日、首都バグダッドへの進撃を目指す武装勢力に対する掃討作戦の開始を宣言する声明を出した。イラク軍高官は14日、攻防戦の焦点となっている中部サマラに援軍が到着、反撃の準備を整えたと語った。フランス公共ラジオが伝えた。

 マリキ政権は首都北方約100キロ前後に位置する中核都市サマラ、バクバを首都防衛ラインとして死守する構えだ。

 オバマ氏はイラク情勢について「いずれ米国の国益を脅かす可能性がある」と懸念を表明しながらも、泥沼化したイラク戦争を教訓に「以前の状況に再び引きずり込まれるようなことはしない」と述べ、慎重に対処する方針に理解を求めた。

 CNNテレビは空爆を視野に入れ、米空母ジョージ・ブッシュがペルシャ湾に向かうとの米政府当局者の話を伝えた。ただ現地の情報が乏しいため標的の選定が難しい上、市民が巻き添えになる危険も高いとしている。複数の米政府当局者はAP通信に、現時点で首都が陥落する可能性は低いとの見方を示した。

 イラクの隣国イランのロウハニ大統領は14日、イラクから要請があれば支援する用意があると表明した。ただし、まだ要請は受けておらず、軍部隊の派遣については「していないし、しないと思う」と語った。

 シーア派のイランは同派主導のマリキ政権と緊密な協力関係にあるが、米国などの反発が必至である直接的な軍事介入には慎重とみられる。

 ≪ISILバグダディ指導者 アルカーイダ本体し≫

 シリア内戦で台頭

 イラク北部から首都バグダッドへの進撃を目指す国際テロ組織アルカーイダ系のイスラム過激派ISILは、シリア内戦に乗じ急速に勢力を拡大した。「冷酷で容赦ない」と評されるバグダディ指導者率いるISILの戦闘力は、既にアルカーイダ本体をしのぐと指摘されている。

 2004年にイラクで香田証生(こうだ・しょうせい)さん=当時(24)=を殺害したことで知られる「イラク聖戦アルカーイダ組織」などがつくった「イラク・イスラム国」がシリアに戦線を拡大し、13年4月、「イラク・レバントのイスラム国」に改称。シリアで活動するアルカーイダ系過激派「ヌスラ戦線」との統合を発表した。

 だが、アルカーイダ指導者のザワヒリ容疑者は統合を認めず、アルカーイダの意向を無視し一般市民の無差別殺戮(さつりく)を繰り返したISILにシリアからの撤退を要求。

 しかし、ISILはアサド政権だけでなく、ヌスラ戦線を含む反体制武装勢力とも激しい戦闘を続け支配地域を拡大。アルカーイダは今年2月、ISILとの関係断絶を表明した。

 イスラム教の戒律を厳格に適用するイスラム国家をイラク、シリアにまたがり樹立しようとするISILは、掌握したシリア北部ラッカなどで、女性に全身を隠す衣装「ニカブ」の着用を強要するなどした。

 急拡大の要因はイラク人のバグダディ指導者の実行力との指摘もある。今回のバグダッドに向けた進撃が、イラクで新政権が発足していない不安定な時期を狙ったのは明白。イスラム教シーア派主導のマリキ政権に強い反感を持つスンニ派の住民感情を巧みに利用しようとする狙いもみえる。

 誘拐・密売で資金

 ロイター通信によると、ISILは誘拐や密輸など従来の資金獲得手段に加え、シリア東部の油田を支配し、密売によりこれまでに数百万ドルを調達したという。バグダディ指導者は積極的に外国人を引き入れ、厳しい軍事訓練を実施。シリア内戦に参加する欧米出身者の8割がISILに流れているとの推計もあり、イラク、シリアに展開する戦闘員は計5000~6000人に膨らんだという。米政府はバグダディ指導者の拘束につながる情報に1000万ドル(約10億円)を支払うとしている。

 欧米の対テロ専門家は「ザワヒリがこの10年で行ったのは声明を出すことぐらいだったが、バグダディは都市の制圧と大量動員を実行し、無慈悲な殺戮を続けてきた」と、ISILの脅威を強調した。(共同/SANKEI EXPRESS

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