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【イラク情勢】米軍トップ「即時空爆は困難」 イラク手詰まり 軍は敵前逃亡
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米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は6月18日、イラクのイスラム教スンニ派の過激派「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の進撃阻止策として、米軍が空爆を直ちに行うことは容易でないとの考えを示した。上院の公聴会で証言し「過激派は(住民らの間に)かなり入り込んでいる」として識別は難しいと述べた。イラクのジバリ外相は18日、空爆実施を米国に正式に要請したと表明。米メディアは17日以降、オバマ大統領は当面の空爆を見送る方針だと報じている。オバマ政権は空爆の可能性を残しながらも、イラク各派の融和策を求める構えだ。
バイデン米副大統領は18日、イラクのシーア派とスンニ派、少数民族クルド人の指導者と相次いで電話協議し、「イスラム国」に対抗するため、イラク各派による「国家的な結束」が必要だと訴えた。
バイデン氏はシーア派のマリキ首相に対し、イラク社会の多様性を反映した統治の必要性を強調。スンニ派などを含めた挙国一致政権の樹立を求める姿勢を示した。バイデン氏はスンニ派のナジャフィ連邦議会議長、北部クルド自治政府のバルザニ議長とも協議した。
オバマ大統領は18日、野党共和党のベイナー下院議長ら上下両院幹部をホワイトハウスに招き、イラク問題を協議。共和党のマコネル上院院内総務は「基本的にイラクの状況の説明を受けただけだ」と述べた。民主党のリード上院院内総務とペロシ下院院内総務も参加した。
≪イラク手詰まり 軍は敵前逃亡≫
イラクで空爆に踏み切るか否か。米軍のデンプシー統合参謀本部議長は、過激派に標的を絞って空爆するのは難しいとの考えを表明した。オバマ大統領は、地上部隊派遣以外の「さまざまな選択肢」を検討すると6月13日に宣言して以降、黙考を続けている。士気が低いイラク軍は守勢に回り、イラクの秩序回復は手詰まりの状況だ。
空爆について、米軍制服組トップのデンプシー氏は18日の議会証言で「iPhone(アイフォーン)で車列を見ながら『それ攻撃だ』と言えるような簡単なことではない」と難しさを強調した。
米軍はペルシャ湾に空母ジョージ・ブッシュやミサイル駆逐艦など6隻を展開、攻撃態勢を整えているが、空爆への慎重姿勢は鮮明だ。空爆は「攻撃目標を正確に定め、かつ効果を挙げる」(オバマ氏)ことが必要だが、米軍は2011年12月にイラクから完全撤退した後、情報の収集能力が衰えたといわれる。
不明な点が多い組織を相手に、情報が不十分なまま空爆すれば、一般住民に犠牲が出るだけだ。米軍が今も駐留するアフガニスタンでは、相次ぐ誤爆で一般住民の犠牲が拡大して反米感情が高まり、情勢が安定しない要因になっている。
イラク軍も情報収集で頼りにできそうにない。イラクで実戦経験のある元米軍将校は米紙に「イラク軍がもたらす現場の情報が、正確だったことはない」と語った。
米国内ではオバマ政権の慎重姿勢に批判も噴出している。「イラクが過激派に乗っ取られようとしている時に地球温暖化対策の話をしている」。03年のイラク戦争を推進したチェイニー前副大統領は18日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルに寄稿し、オバマ氏が「米国の退却」を世界的に進めたことで国際社会が混乱に陥ったと非難した。「米兵が大変な思いで勝ち取ったものを政治的に浪費している」(共和党のハンター下院議員)との声もある。
ロシアによるクリミア併合などで、オバマ氏の外交姿勢は不人気だ。ウォールストリート・ジャーナルの最新世論調査で外交政策の支持率は37%と過去最低となり、3年前に比べ20ポイント低下した。
公約のイラク戦争終結をようやく実現したオバマ氏には、再攻撃に踏み切れば見通しの誤りを認めた印象を与え、業績が負の遺産に変わるという懸念があるとみられる。
イラクのマリキ首相は国民向け演説で「事態の悪化は食い止められる」と繰り返しているが、イラク軍の作戦は目立った成果がない。北部で支配地域を広げた「イスラム国」は首都バグダッドの北方約50キロに迫り、軍と攻防を繰り広げている。
「イスラム国」急拡大の背景には、シーア派主導のマリキ政権がスンニ派を冷遇したことによる宗派対立の再燃がある。スンニ派地域では住民が「イスラム国」を歓迎する声がある。イラク第2の都市、北部モスルが制圧された際、イラク軍兵士が応戦せず、軍服を脱ぎ、武器を放棄して逃げる様子が報じられた。真っ先に逃げたのはスンニ派将校だったという。
イラクでは旧フセイン政権時代、政府と軍の中枢をスンニ派が担っていたが、イラク戦争でフセイン政権は打倒されて旧軍は解体され、現在の政府と軍はシーア派主導となった。(共同/SANKEI EXPRESS)