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指揮者バレンボイム氏 スカラ座退任表明 音楽学校 中東和平懸け橋に

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指揮者バレンボイム氏 スカラ座退任表明 音楽学校 中東和平懸け橋に

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11月28日、「スカラ座」の記者会見場に姿を現したダニエル・バレンボイム氏。音楽監督からの退任を発表するとともに、中東和平に向けて音楽が持つ可能性を熱っぽく説いた=2014年、イタリア・ミラノ(AP)  イタリア・ミラノの名門歌劇場「スカラ座」の音楽監督を務める世界的な指揮者・ピアニストのダニエル・バレンボイム氏(72)=イスラエル国籍=が28日、スカラ座内で記者会見し、任期を2年残して今月限りで退任することを表明した。理由は、2年後にベルリンで創設することを目指している、中東出身の若い音楽家たちが学ぶ音楽学校の開校準備に力を注ぐためだとしている。紛争地の若者が共に学ぶことで、音楽を「共存の懸け橋」とし、中東和平達成の一助とするという理念を巨匠は熱く語った。

 成し遂げねばならぬ

 アルゼンチン出身のバレンボイム氏は、2007年に音楽部門で高松宮殿下記念世界文化賞を受賞し、11年12月からスカラ座の音楽監督に就任。ベルリン国立歌劇場の音楽監督も1992年から務めている。

 一方で、イスラエルの良心的文化人としてパレスチナ問題ともかかわり、99年に長年対立するイスラエルとヨルダン、レバノン、シリアなどアラブ諸国の音楽家から成るオーケストラ「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」を結成、自ら指揮者を務めている。2005年には厳戒態勢の中、パレスチナ自治区ラマラで演奏会を敢行し、大きな感動を呼び起こした。

 AP通信などによると、バレンボイム氏は28日の会見で、「任期途中で去ることは寂しい。しかし、私には全力を傾けて成し遂げなければならないことがある」と語り、その上で「音楽学校が人間関係を築くことに寄与でき、そのことがいつの日か、中東紛争を止めることにつながる。私は確信している」と訴えた。

 さらに、「私にできることは人々の触れ合いを創出すること。(中東和平は)政治ではうまくいかない。なぜなら政治こそは人間の衝突そのものだからだ」と力説した。スカラ座の音楽監督は30日付で退くが、12月7日に開幕するベートーベンの歌劇「フィデリオ」ではタクトを振るい、これがスカラ座での最後の活動になるという。

 ベルリンに16年開校

 バレンボイム氏が創設に並々ならぬ情熱を注いでいる音楽学校は「バレンボイム・サイード・アカデミー」と名付けられ、命名は自身の名前と、共にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団をつくったパレスチナ系米国人の文学者、エドワード・サイード氏(1935~2003年)の名にちなむ。ベルリン国立歌劇場の裏手にある収蔵庫を改造して建てられ、リハーサル室、事務所、カフェ、622席のホールなどから成り、楕円の形をした上下二層の客席が中央の舞台を囲むユニークなホールは、バレンボイム氏と親交があるカナダ出身の著名建築家、フランク・ゲーリー氏(85)が設計した。

 16年に音楽学校に入る1期生は、奨学生として選ばれた中東出身の音楽家たちで、3年間、バレンボイム氏らの薫陶を受けて学ぶ機会を与えられる。ドイツ政府もこのプロジェクトを「中東和平のためにドイツとして貢献できる」と評価し、音楽学校の建設費用3400万ユーロ(約50億円)のうち、2000万ユーロを出資。今後も財政的に援助していくとしている。

 今月9日には、「ベルリンの壁」崩壊25年を記念してブランデンブルグ門前で行われた記念コンサートで、1989年当時と同様にベートーベンの第九交響曲の「歓喜の歌」の指揮をとったバレンボイム氏。「敵とみなしている者同士を、学びの場でまずは人間として向き合わせる。音楽が持つ『共存の懸け橋』としての可能性に賭けてみたい」とも言い切った。(SANKEI EXPRESS

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