SankeiBiz for mobile

「生きづらい」世の中を変えよう 「どんなふうに」 これからも考え続ける

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

「生きづらい」世の中を変えよう 「どんなふうに」 これからも考え続ける

更新

まぜこぜエクスプレスに登場してくれた比嘉セツさん(左)と、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる(提供写真)  【まぜこぜエクスプレス】Vol.38

 ふだんなかなか目にすることが少ないマイノリティーに関する情報を届けてきた「まぜこぜエクスプレス」。2回にわたってこれまでのことを振り返り、新しい年にやるべきことを考えてみる。1回目は、取材で浮かび上がってきたキーワード「生きづらさ」について。

 自分らしく生きられない

 果たして今の時代、「生きづらい」と感じていない人などいるのだろうか?

 私が「生きづらい」と感じ始めたのは10代半ばだったように思う。円満な家庭のどこにでもいる高校生。「フツウ」なのだから恵まれているのだろう、満足して感謝しながら生きていかなくてはと漠然と考えていた。と同時に、私はワタシを生きていないとも感じていた。16歳から18歳までの記憶がスッポリ抜けていることが、「解離」によるものと知り、自分をごまかすことに限界を感じた30代にカウンセリングを受けた。生き直しを始める第一歩は、生きづらさを表現することだった。その頃から他者の生きづらさへの探求心がムクムクとし始め、仲間だらけだとわかった。

 けれども、ラテンアメリカなどの映画を配給している長年の親友、比嘉セツさんから「生きづらい」という言葉が出たのは意外だった(2014年6月11日掲載)。彼女は「映画の仕事をするのは、日本に住んでいると私が生きづらくてしかたないから」と言った。「好きなことしかしない」と話す彼女でさえ、今の日本は自分らしく自由に生きていけない場所なのだと改めて実感した。

 そして、海外で恵まれない子供たちの支援をしている2人が、口をそろえて「日本が豊かな国だとは思えない」と言ったことも印象的だった。

 ガーナで教育支援などを行ってきた「enije(エニジェ)」代表の矢野ディビットさんは、「ガーナは物質的な問題があるが、日本も幸せな国だとは思えない」と言った(2014年7月2日掲載)。実際、日本は1998年から15年以上、自殺者が約3万人もいる。

 紛争の絶えないフィリピンのミンダナオ島で活動する「ミンダナオ子ども図書館(MCL)」の松居友さんは、過酷でつらい環境に置かれたミンダナオの子供たちだが、助け合って暮らしているので、「自殺する子はいない」と言う(2014年6月18日掲載)。ミンダナオの子供たちに「日本では孤独で自殺する人がいる」と教えると、「豊かな国なのになぜ?」と不思議がるのだと話してくれた。「友情が人を支える」という友さんの言葉が深く心に残っている。

 広がるピアサポート

 一方で、生きづらさから脱却するための「ピアサポート(自助活動)」の輪が広がっている。「苦しんでいる人の力になりたい」と立ち上がったのは、みんな壮絶な体験を経て生き抜いてきたサバイバーたちだ。

 病気や障がいを自慢できる強者が集結したパフォーマンス集団「こわれものの祭典」を主宰する月乃光司さんは、「生きづらさを抱えている人の居場所として、きっかけづくりがしたい」とその動機を語ってくれた(2014年10月15日掲載)。15歳くらいから対人恐怖で人と話すのが怖くなったという月乃さんは、生きづらさから逃れるためにアルコール依存症になった過去がある。

 渋谷区神宮前に「カラフルステーション」をオープンした杉山文野さんも、「さまざまな人が集まるフラットなコミュニティーをつくっていくことが自分の役割だと思っている」と意欲的だった(2014年6月4日掲載)。トランスジェンダーとして、「自分は何者なのか」「どう生きるのか」と悩み続けた文野さんだからこそ、「多様な個性の人たちを受け入れる懐の深い街をつくっていきたい」という、その思いは強い。カラフルステーションはLGBTのみならずたくさんの人たちが集う居心地のいい空間として、街に定着してきている。

 レズビアンを公表したアクティビストの東小雪さんは、強烈な不安にさいなまれ、薬依存や自殺未遂などを繰り返してきた。カウンセリングで過去を見つめ直し、実父から性的虐待を受けていた記憶を取り戻す。その体験をつづった『なかったことにしたくない』を出版。「同じ体験をしている人に、被害を受けたあなたが悪いんじゃない、と伝えていきたい」と語ってくれた(2014年9月3日掲載)。パートナーの増原裕子さんとともに、オンラインで仲間と交流できる会員制コミュニケーションサロン「こゆひろサロン」も立ち上げた。

 「生きづらさ」の取材は正直重い。時には、聞いた言葉から数日抜け出せないこともあった。だが、その中に毎回発見がある。希望や勇気がある。生きづらさと向き合っている人は強い。強い人は優しい。優しい人は共に生きることを知っている。だから居心地がいい。ビバ! 生きづらさを生き抜いてきた仲間たち。生きづらい世の中をどう生き抜くのか、どんなふうに変えていけるのか、これからも考えていきたい。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/SANKEI EXPRESS

ランキング