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【まぜこぜエクスプレス】Vol.37 起業家の発想で社会を変える 「AlonAlon」那部智史理事長
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NPO法人「AlonAlon」理事長の那部智史さん(左)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる。胡蝶蘭などの販売を通じて「まぜこぜの社会」を実現する「Get_in_touchフラワープロジェクト」もスタート(tobojiさん撮影) NPO法人「AlonAlon」は、たとえ障がいがあっても楽しく働き、豊かに暮らせる社会をつくるという目標に向け、着実にビジネスモデルを築きつつある。「AlonAlon」とは、インドネシアのバリ島の言葉で「ゆっくり ゆっくり」。「焦らず、時間をかけて社会を変えていきたい」という理事長の那部智史さんに話を聞いた。
那部さんは、日々せわしなく動いているにもかかわらず、いつも明るく充実した表情をしている。「AlonAlon」、「障がい者の自立のために所得向上をめざす議員連盟」、そして「Get in touch」。彼が関わる3つの活動がすべてボランティアで、自由に動いているからだろう。収入源はアパート経営。以前経営していたIT企業を売却したお金で建てたのだという。
お金の使い方、回し方を考えることが得意で、「お金を作る」という発想も独特だ。きっとそれは、お金に支配されていないから、お金のために何かをするということがないからだろう。お金はあくまでもひとつの「道具」で、その道具をいかにうまく、便利に使うかを考えているのだと思う。
しかし、そんな那部さんも、お金に縛られていた時代があったそうだ。彼の一人息子の慶太君は知的ハンディキャップを伴う自閉症。障がいがわかり、医師から「一生、しゃべれません」と告げられたときには、「世界でいちばん怖いホラー映画をみているようだった」と振り返る。
29歳でサラリーマンを辞めて起業。周囲から同情されたり、哀れまれたりしないためには、羨(うらや)ましがられなければと、必死で会社を大きくし、得た収入で華やかな生活を送ってみた。しかし、「自分が死んだ後、いったいこの子はどうなるんだろう…」という思いが頭から離れず、「幸せに生きる」ということを深く深く考えるようになったそうだ。「最初は社会が正しくて、自分の子がNGだと思っていた」という彼が、慶太君の障がいを受け入れ、「社会が寛容であればいい。社会が変わればいいんだ」と気づくまで、大きな苦悩があり、ずいぶん時間がかかったのだという。
AlonAlonのミッションは2つ。「障がい者の所得を引き上げる仕組みをつくり出すこと」。そして、「その所得によって豊かな生活ができるような環境(住居)をつくること」。
障がい者の親になって初めて那部さんは、「今の社会は五体満足で健康な人だけがハッピーな世界。そうでない人、特に知的障がいや精神障がいの人が取り残されている」と気づく。そこで、経済的な競争社会にいた経験を生かし、新たな福祉のビジネスモデルをつくりたいと考えた。その一つが「AlonAlonフラワープロジェクト」だ。
知的ハンディキャップをもつ約50人が、胡蝶蘭(こちょうらん)などのお花の栽培を行っており、順調に売り上げを伸ばしている。「なぜ胡蝶蘭なのか?」との問いに「値崩れしないから!」と明快な答え。彼の発想にファンタジーはない。そういう役回りの人も必要だということを分かったうえでの言動なのだ。
胡蝶蘭などのランは着生植物だ。寄生ではなく着生。土に根を張るのではなく、木や岩場などに根を絡ませる。宿主の養分は吸い取らず、寄り添いながら花を咲かせ、木や岩をも美しく飾る。周囲と共に生きるランを選択したのも、那部さんらしい。
目標は、日本の花生産の30%を障がい者の仕事にすること。「日本の祝い花の市場は、1000億円といわれる。そのうち300億円を障がい者の仕事にしたい」と夢は大きい。
売り上げの20%がGet in touchの活動費として寄付される「Get in touchフラワープロジェクト」もスタートした。市場を開拓し、ビジネスモデルを構築することで、障がい者が自立できる、誰も排除されない社会をつくる。「そのためには法整備も必要」と精力的だ。起業家ならではの発想かもしれない。
エネルギッシュで常にアクティブにみえる那部さんだが、実は、今年の1月にがんの摘出手術で入院していた。一度は死も覚悟したというが、手術は無事成功し、よりパワーアップして第二の人生を楽しんでいる。「せっかく慶太がたくさんの出会いをくれ、人生をおもしろくしてくれたんですから。慶太が生まれてきてくれなかったら、トナカイにもなっていませんよー」と笑う。フットワーク軽く、今日も生き生きと営業に走っていることだろう。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/SANKEI EXPRESS)