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【まぜこぜエクスプレス】Vol.34 家族は不完全 だから面白い
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「さまざまな家族のカタチがあっていい」と話す「にじいろかぞく」の小野春さん(右)と、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2014年11月21日(tobojiさん撮影、提供写真) □子育て中のLGBTファミリーの会「にじいろかぞく」運営 小野春さん
日本ではまだ表に出ることが少ないが、「LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)」のカップルの両親が子供を育てる新しいタイプの「家族」がゆるやかに増えている。同性カップルが子供を授かり、親子になり、子育てをして、周囲とお付き合いをしていく…。さまざまなドラマを経て模索される新しい家族のカタチについて、子育て中のLGBTファミリーの会「にじいろかぞく」を運営する小野春さんに話を聞いた。
春さんはふんわりと穏やかな、本当に春の日差しのような人だ。春さんが笑っていても、ちょっと困った顔をしていても、その場の雰囲気がとっても楽チンなものになる。きっと「にじいろかぞく」を立ち上げるまでには、相当な苦悩や苦労もあったに違いないのに。
「にじいろかぞく」は、日本でも確実に増えつつあるLGBTファミリーの会。6色のレインボーカラーはセクシュアルマイノリティー(LGBTなど性的少数派)のシンボル。「にじいろかぞく」に集うみなさんは、まさにレインボーカラーのごとく多種多様だ。ゲイの友人から精子提供してもらい出産したレズビアンカップルや親族の子を引き取っているゲイ。また、結婚して子供を授かってから自分のセクシュアリティーに気づき、生き直しをする人も少なくない。
実は、春さんもそんな一人だったという。26歳で結婚、27歳で出産。「生きづらさは少しあったけど、自分の中で封印していた」と振り返る。子供が生まれ、しばらくして結婚生活がうまくいかなくなり、さまざまな原因を考えるうちに否が応でも自分のセクシュアリティーに直面することになった。「30歳を過ぎてからの自分探しでした」と笑う。学生時代、同性の友人に片思いをしたこともあったが、「当時はレズビアンのイメージが自分とかけ離れすぎていて、想像できなかった」。
ネットが普及した今、セクシュアルマイノリティーの人たちも以前より気軽に情報を得られるが、春さんの場合「同性愛者かも…」と気づいてから、必要な情報を得て、これで生きていくんだと受け入れるまでに2、3年の歳月が必要だったのだ。
春さんが呪縛から逃れられなかったのは、「家族」の存在が大きかったという。当時を振り返って、「親は絶対喜ばない、親の期待から外れたら人生終わるみたいに思っていた。いろんな常識に縛られて、私はなかなか動けなかった」と穏やかに話す。
「今のパートナーと出会い、家族として暮らし始めてからも、すんなりきれいにはいかなかったですね。セクシュアリティーのこともあるけど、パートナーにも子供がいたので、ステップファミリーとしてやっていけるのか自信もありませんでした」
春さんが「にじいろかぞく」を立ち上げたのは、同じ悩みを抱え、孤立しがちなLGBTファミリーが気軽に集えて、情報交換できる場が必要だと考えたからだ。「内容はピクニックや茶話会なんですけどね」
4月に代々木公園で開かれたパレードやフェスタを通じたLGBTの啓発活動「レインボープライド2014」の「にじいろかぞく」さんのブースは、とても居心地がよかった。仲良し家族のピクニックのようなテント内で、談笑したり、お弁当を食べたり、テントからはみ出して走り回ったり。どの組み合わせが親子なのか、そんなことはどうでもよくなる感じがあった。そこにいる人たちから醸し出る愛情、絆、家族感がキラキラしていた。
春さんは、LGBT家族だけでなく、ひとり親、再婚、里親・養親といったさまざまなファミリーたちが集う「家族のダイバーシティ(定形外かぞく)」の運営にもかかわっている。
「ふつうの家族像に縛られてなかなか家族というアイデンティティーが持ちにくかったり、社会からプレッシャーを受けることで“ステキ家族”を演じてしまったり、家族にはそれぞれ、いろんな悩みがありますね」
家族って、実はずっと不完全なものかもしれない。こうあるべきだという家族観に縛られていると、次第に生きづらさを感じるようになる。「にじいろかぞく」の存在は、セクシュアリティーの問題だけではなく、今の時代に子供とどう生きるのか、あらゆる家族に気づきと潤いを与えるものだとも思った。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/撮影:フォトグラファー toboji/SANKEI EXPRESS)