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【まぜこぜエクスプレス】Vol.27 「対等に自由」暗闇で体感 ダイアログ・イン・ザ・ダーク
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(左から)「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」ジャパンの代表、志村真介さん、暗闇のエキスパートであるアテンドのえばやん、ランランと、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2014年9月14日(山下元気さん撮影) 「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」は、1988年にドイツの哲学博士、ハイネッケ氏の発案から生まれた暗闇のソーシャルエンターテインメントだ。参加者は完全に光を遮断された空間にグループで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)のサポートのもと探検さながらにいろいろなシーンを体感する。DIDジャパンの代表の志村真介さんとアテンドのランランに話を聞いた。
9年前、初めて体感したDID。一筋の、いや一点の光もない暗闇での体感する暖かさや癒やし、感動が忘れられず、時々家中を真っ暗にし、さらに目を閉じて歩いてみる。すると普段いかに視覚に頼って暮らしているかがわかる。五感の視覚以外の感覚が研ぎ澄まされ…とまではいかないにしても、感覚が張り切り出すのがわかる。
世界35カ国の約130都市で開催されてきたDIDを、日本に持ち込んだのが、志村真介さんだ。真介さんとDIDの出会いは93年。新聞の海外トピックスでDIDの記事を読み、「ヨーロッパは進んでいる」と感動。「日本でも目に見えるものに投資するだけでなく、人間の関係性を求める時代が来るはずだ」と直感したという。
99年から10年間、期間限定で各地で開催してきたが、「視覚障がい者が働き続けられる場をつくりたい」と、7年前に東京都渋谷区に常設会場を作った。現在、スタッフの3分の2が視覚障がい者。「目が見えている人の方が少数派」と、真介さんはおちゃめに笑う。
DIDジャパンのプログラムは運動会、クリスマス、バレンタインと季節ごとに変わる。ネタバレになるので具体的な紹介はできないが、何も見えないのに、そんな大胆なこと、繊細なことができるのかと、最初は腰の引けた歩き方で、動作も恐る恐るになる。
参加者の肩書はおろか、顔も男女の区別も、自分の輪郭、自分の存在さえ分からない。不安過ぎる…と思ったら大間違い! それは自由だということに気づき、自然と解放されてくる。だからリピーターも多いのだろう。
参加者同士でとにかくしゃべる。まさに「暗闇での対話」だ。見えない分、声で伝えあう。満員電車はあれほど不快なのに、DIDでは人に触れたり、人の気配を感じたりして安堵(あんど)する。
暗闇をそんなふうに楽しめるのは、アテンドの存在が大きい。「暗闇なら任せてー」と笑う全盲のアテンド、ランランはみんなに声をかけながら自由自在に暗闇を歩く。「潜在能力はみんな同じように持っているはずなので、それをいかに使ってもらうかお手伝いしている」
真介さんは「DIDは、単なる目が見えないという不自由さの疑似体験ではない」と断言する。「暗闇の中で助けたり、助けられたりすることで、誰もが対等に自由であるということを体感できるはず」。何かにぶつかったりしても、それは失敗ではなく発見なのだ。
できるだけたくさんの人に体験してもらいたいと、DIDジャパンでは「暗闇のデリバリー」も行っている。「地方への出張は楽しい」と、ランランはうれしそうだ。「ドキドキするけど、人と話をする機会が増える」
真介さんは「まだまだ、いわゆる健常者中心の社会。まずは、街に障がい者が出かけていくことが大事」と考えている。実際、DIDを常設したことで地域が変わってきたと実感している。雪の日に点字ブロックの周囲を誰かが雪かきしてくれていたり、ぶつからないよう樹の枝を切ってくれていたりと、「見守ってもらっている実感がある」と真介さん。「DIDは、お互いの多様性を認めあっていくプラットホームであり続けたい」と、さらなる展開も考えている。
普段、いかに見た目だけの価値観に支配されていて、そこに落とし穴が潜んでいることに気づかないでいるのか。そこから1時間でも解き放たれると、多様性社会のおもしろさに気づくのではないだろうか。実際、DIDは、リーダーを育成する企業研修などにも利用されているのだという。
いつか、真っ暗闇での会議「ミーティング・イン・ザ・ダーク」をしてみたい。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS)