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【まぜこぜエクスプレス】Vol.24 「つらいけど楽しい」 難病をつづる大野更紗さん

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.24 「つらいけど楽しい」 難病をつづる大野更紗さん

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難病サバイバルをつづった『シャバはつらいよ』を発刊した大野更紗(さらさ)さん(右)と、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2014年9月5日(山下元気さん撮影)  いまだに治療法がみつかっていない「難病」。大学院生としてミャンマー難民研究にたずさわっていた2008年、大野更紗(さらさ)さんは、自己免疫疾患系の難病を発症した。入院生活をつづった『困ってるひと』で作家デビュー。その後退院し、今年7月に続編『シャバはつらいよ』(ポプラ社、1300円+税)を発刊した。更紗さんに話を聞いた。

 「どうやって伝えるか」

 更紗さんのデビュー作『困ってるひと』に出会ったのは2011年、私の家族が難病になって1年目の時だった。その難病は医療費助成の対象となる「指定難病」でないにもかかわらず、治療法もなく、病気に詳しい医者とも出会えず、暗く長いトンネルをさまよっていた。わらにもすがる思いで難病の本をあれこれ読み、おなかいっぱい…。そんなタイミングだった。

 次から次と襲うアメージングでシリアスな症状をエンターテインメントにつづった本にハートをわしづかみにされ、ラジオ番組に更紗さんにお越し頂き対談した。そこから、私も新たな視点で闘病というものを捉えることできるようになり、家族のことを尋ねられても、「絶賛難病中です~」と返せるようになった。

 あれから3年。新刊を出した更紗さんは「デビュー作は勢いで書いた。今回は難産だった」と振り返る。「病気や障がいは、経験しなくちゃ本当のところはわからない。それをどうやって自分以外の人に伝えるか。パーソナルな辛い経験を伝えることにどんな意味があるのか。伝えたら何が起こるのか…」。心は揺れ動き、考えながら書いたという。

 「最後は考えてもしようがない!って心境に至るんですけど」と笑う彼女は、サバイバーとしてパワーアップし、物書きとしても進化している。ほとばしる言葉やはじけるユーモア。面白いのはもちろん、ズシリとした問題提起もサラリと盛り込まれ、「えっ!?」と気づかされて、「ムムム」と考えさせられる。

 「軽い気持ちで読んで」

 「このままでは社会的な生命が失われる気がして、今、シャバに出ていかなくちゃ…という気持ちになった」と、入院から自ら卒業。

 だが、待ち受けていた社会はこれまたアメージングにシビア。新居のドアは重くて開かない、憧れたコンビニははるか遠く、通院は地獄の道のり、待てど暮らせど電動車いすはやって来ない…。「病院から出て一人で生きていくことって、ある意味、賭けなんですね。助けてくれる人があらわれるのか、公的な制度が自分を支えてくれるのか、実際やってみなくちゃわからないことがたくさんある」

 しかも、社会保障のシステムは困っている人にやさしくない。支援を受けるには申請が必要で、その手続きはややこしく難解だ。

 更紗さんのサバイバルの厳しさに「どうやって生きのびるの!?」とハラハラさせられるが、世の中なかなか捨てたもんじゃない。「日本社会っていろんな顔があると思うんですが、意外と熱いハートを持っている人がいて、応援してくれるので、すごくうれしい」と更紗さん。見ず知らずの熱い人の支援にこちらまで熱いものがこみ上げてくる。「社会は、人は変わるかもしれない」と。

 「今の日本で障がいや病気を持つ人がみんなと一緒に生きていくのって、正直つらい。つらいんだけど、一緒に解決策を考えていけるのは楽しい」。それが何より伝えたいことなのだと更紗さんは言う。「軽い気持ちで読める本として手に取ってもらい、難病のことを知ってもらって、大きい災害があったときなんかに『あの人たちどうしてるかな?』って思ってもらえたらうれしい」

 更紗さんの健全な好奇心、探求心、知性は、生きづらい今の時代を生きる心構えのヒントにもなる。ぜひドラマ化を希望。「難病コメディー」という新たなジャンルになるだろう。私は更紗さんが何をやっても信頼して見守っているという、福島に住む「ムーミンママ」(更紗さんのお母さん)を演じたいなぁ。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS

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