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【まぜこぜエクスプレス】Vol.21 「痛み」が生んだ心ゆさぶる芸術 「岡本太郎とアール・ブリュット」展

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.21 「痛み」が生んだ心ゆさぶる芸術 「岡本太郎とアール・ブリュット」展

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「岡本太郎とアール・ブリュット-生の芸術の地平へ」展のキュレーターを務めた中津川浩章さん(左)と、一般社団法人「Get_in_touch」理事長、東ちづるさん=2014年7月18日、神奈川県川崎市多摩区(提供写真)  「川崎市岡本太郎美術館」で開催されている『岡本太郎とアール・ブリュット-生の芸術の地平へ』展は、「アール・ブリュットとは何か」を問いかけ、心をゆさぶるアート展だ。キュレーターの一人である中津川浩章さんに話を聞いた。

 「感じるんです」

 2012年に、東京都美術館で開催された、埼玉県川口市にある社会福祉施設「工房集」の『生きるための表現』展で、展示会を取り仕切るキュレーターを務めた中津川さんとトークショーを行った。含蓄ある話をたっぷりした上で、「アートはわからなくていいんです。僕だってわからないんですから」とニヤリと笑った。なんておちゃめな美術家なんだろうとうれしかった。

 その中津川さんが「ずっと、やりたいとあたためていた」と言う企画が、今回のアート展だ。

 日本が世界に誇るアーティスト、岡本太郎を知らない人はいない。実は彼は1950年に刊行した『アヴァンギャルド藝術』(美術出版社刊)で、アバンギャルド芸術と同じ地平で「子どもの絵」「精神障がい者の絵」「民族資料」を紹介し、自身の芸術観を語っている。

 そんな彼の先見の明をリスペクトし、今回のアート展では岡本太郎の作品が並ぶ同じ空間に、アフリカのお面やオブジェ、そして、「工房集」「やまなみ工房」「アトリエ・コーナス」などの福祉施設に所属するアーティストたちの作品の数々を展示した。

 「精神の自由さからくるデタラメこそが真の芸術である」「四角い枠にこだわるな。キャンパスからはみだせ」「手慣れたものには飛躍がない」「常に猛烈なシロウトとして危険をおかし、直感にかけてこそ、ひらめきが生まれるのだ」

 岡本太郎が残した名言の数々。まさに「芸術は爆発だ」の世界だ。

 「ジャンル」という意識を超えたエネルギッシュな展示は、アーティストのハートさえもゆさぶり、レセプションでは感動のあまり泣き出すアーティストもいた。

 「線引きできない」

 「美には傷以外の起源はない」。これは、フランスの作家ジャン・ジュネの言葉だ。ジュネの言葉にインスピレーションを得たという中津川さんは、「痛みは作品を生むエネルギーになる。そして、障がいがあるなしではなく、すべての人間が痛みや欠損を抱えて生きている」と語る。そして、「障がいのある人たちは、言葉が操れなかったり、コミュニケーションが難しかったりと、ハンディがあるからこそ、その表現に託すものが深くて大きいのだと思う」と言った。

 確かに、障がいをもつアーティストの作品の多くは、実に雄弁で、心にダイレクトに突き刺さってくる訴求力を持つ。

 たとえば、出展作品であるアトリエ・コーナスの大川誠さんの「makoot(マクート)」。ニードルパンチという技法を用いて製作したフェルト人形は、とびきり人懐っこく、「ねぇねぇ」と語りかけてくるような親しみやすさがある。マクートのファンは多く、アニメが制作されたり、人形劇に使われたりと、日本だけでなく海外でも人気だという。

 そして、壁一面に展示されている中津川さん自身の作品は、流動的な人生をぶつけるような、自由闊達(かったつ)なリズムを刻むような作品だ。決して固定されない、こちらの心理状態で変化する不思議さ。ずっとたたずんで眺めていたくなる。

 「アール・ブリュットとアートは、決して線引きできるものではない」と中津川さんは言う。なぜならば、もともとアーティストという存在自体がアウトサイダーだからだ。

 「障がいがあろうがなかろうが、人間としての営みの中に、きっと、通底しているものがある。線引きするのでなく、アートを通して共有できる感覚を大切にしたい」(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■川崎市制90周年記念事業「岡本太郎とアール・ブリュット-生の芸術の地平へ」展 2014年10月5日まで。毎週月曜(9月15日除く)と9月16日、9月24日は休館。問い合わせは(電)044・900・9898。

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