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【まぜこぜエクスプレス】Vol.28 アルコール依存症は病気 体験通じユニークに発信 月乃光司さん
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パフォーマンスイベント『こわれ者の祭典』の舞台に上がる月乃(つきの)光司さん(左)と、一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる(山下元気撮影) 日本でアルコール依存症の疑いのある人は440万人、治療の必要な人は80万人いると推計されている(厚生労働省HPより)。しかし、実際に治療を受ける人は少なく、肝臓障害などの病気、飲酒運転や交通事故、自殺などの背景にアルコール依存症が隠れているケースも多い。アルコール依存症からのサバイバーとして、ユニークな活動を続ける月乃(つきの)光司さんに話を聞いた。
2010年、月乃さんと漫画家、西原(さいばら)理恵子さんの共著『西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気』(小学館)を読み、この本がもっと早くあったらたくさんの人が救われただろうと思い、書評を書いた。私の父もアルコール依存症だったからだ。父は肝臓を痛めつけ、62歳で逝った。
アルコール依存症は飲酒の習慣がコントロールできなくなり、「やめたくてもやめられない」というれっきとした病気だ。けれども、「アル中」などと卑下するような呼び方をされたり、「意志が弱い」「ダメな人」などと人格まで否定されたりし、正しく理解されていない。そんな偏見から、治療が遅れたり、治療の甲斐なく命を落としたり、事件や事故を引き起こしたり、巻き込まれたりすることもある。依存症の本人はもちろん、家族の苦しみも筆舌に尽くし難いものがあるのだ。
月乃さんもアルコール依存症に苦しんだ過去をもつ。15歳くらいから生きづらさを感じていたといい、その苦しさから逃れるために、お酒に頼るようになる。「もともと容姿にコンプレックスがあり、対人恐怖症から、ひきこもりのような生活を送っていた。お酒に酔うと人が怖くなくなり、飲み友達もできた」と当時を振り返る。
徐々に飲酒量が増え、手が震える、飲んで暴れる、物を破壊する、記憶がなくなる…といった症状が現れたそうだが、「アル中=酒瓶抱えたおじさんのイメージがあり、自分がアルコール依存症とは考えもしなかった」という。何より「お酒がないと人間関係がもてない、自分になれない」と思い込んでいたので、飲酒をやめることなど考えられなかったらしい。23歳の時、薬とお酒を大量に飲んでの自殺未遂により強制入院。入院先の病院がたまたまアルコール依存症の治療病棟がある病院だったことが幸いし、はじめて「アルコール依存」を指摘された。それでも、困難を抱えた当事者同士で支え合う「セルフヘルプ(自助)グループ」に出会うまでは、飲酒から抜け出すきっかけがつかめなかったという。
「社会的に認知されれば、苦しむ人が少なくなる」と考えた月乃さんは、サラリーマンの傍ら、アルコール依存症の体験や生きづらかった自身の過去を、作家・パフォーマーとしてユニークに発信してきた。さらに、依存症や障がいについて啓発、擁護するイベントを行うパフォーマンス集団『こわれ者の祭典』を立ち上げ、代表を務めている。
私も何度か参加しているが、「そこまで言っちゃっていいの!?」と、びっくりするくらいタブーは一切なし。ひきこもり進行中などさまざまな理由で会場に来られない人にも届くよう、ネット配信も行う(www.ustream.tv/recorded/52650357)。
笑いをとり、当事者のみんなと一緒に笑う。そして詩の朗読では、生きづらさを抱えるすべての人たちに向けて「仲間だ!」とすごい迫力で叫び、涙を誘う。
「生きづらさを抱えている人の居場所として、きっかけ作りがしたい。セルフヘルプグループの紹介もしているので、どこかにつながってほしい」と月乃さん。
もう22年もアルコールを口にしていないが、それでもアルコール依存症まっただ中だという。「飲んだらとまらなくなり、依存する神経伝達回路になってしまった。自分の経験から、アルコール依存症が病気であると伝えることは、ライフワークです」と優しくほほ笑む。
「依存症になったことで、セルフヘルプグループにめぐり会えた。自分も周りも傷つけてきたけど、結果としてはよかったと思えます」
生きづらさを感じる人、そのことを認めるのを躊躇(ちゅうちょ)している人は、ぜひ『こわれ者の祭典』のイベントへ。
気づき、癒やされ、孤立からはい出る光が射すだろう。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS)