ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
スポーツ
【サッカー】アジアカップ敗退 残酷な結末 エース呆然
更新
6人目でPKを外し、香川真司は呆然とピッチに座り込んだ=2015年1月23日、オーストラリア・シドニー(中井誠撮影) PK戦の幕切れは、いつも残酷である。120分間戦い抜いたあげくに広いピッチの一方で固唾をのみながら敗者を決めなくてはならない。例えばイビチャ・オシムは、ユーゴスラビアでも、日本代表監督時代も、結末を見ようとはしなかった。控室にこもってしまう徹底ぶりだった。
アジアカップ決勝トーナメントのUAE戦は試合早々に先制され、後半投入の若き司令塔、柴崎岳(がく、22)のゴールで同点とし、延長でも決着がつかず、PK戦にもつれ込んだ。
先攻の一番手、本田圭佑(けいすけ、28)が左足でふかして大きくバーを越えるミスキック。UAEも1人失敗し、5人ずつを終えて勝負がつかず、サドンデスに入っての日本の1人目は10番、香川真司(25)。右足で鋭く振り抜いたシュートはヤマを当てたGKの指先を抜けて左隅に飛んだが、そのままポストをたたいてしまった。
呆然(ぼうぜん)と座り込む香川。チームメートにうながされ、ようやく戦列に戻ってUAE6人目のPKを待ったが、勝敗が決した瞬間、再びうなだれ、座り込み、涙を流した。
誰に慰められても、顔をあげることができない。UAEの選手らも香川を励ましに集まり始めた。試合で日本を苦しめ続けたUAEの10番、O・アブドゥルラフマンはひと際長く、香川の頭に手を置き、何事か話しかけ続けていた。
同じシーンは何度も見たことがある。前回のアジア杯準決勝では、日本がPK戦で宿敵韓国を下した。歓喜の輪に遠藤保仁(やすひと、34)は加わらず、最後の代表100試合目を飾れなかった韓国のエース、朴智星を慰めていた。4年前の女子W杯決勝では、なでしこジャパンが米国をPK戦で下し、被災地に送る悲願の初優勝を果たした。このときも宮間あやは、米国選手の一人一人を抱擁していた。
日本の選手が外国選手を慰めるシーンを誇らしげに見つめてきたが、逆となると、ほのぼのもしていられない。いつまでも涙が止まらない日本のエースのメンタルは大丈夫か、と心配になってしまうのだった。
≪魅力的だが「勝てないサッカー」再び…≫
「責任を感じる」「申し訳ない」と繰り返した香川と対照的な表情をみせたのは、PK戦の1番手で失敗したもう一人のエース、本田である。
彼は「ビッグプレーヤーが外すのをテレビで見てきた。これがずっと(映像で)残っていくのは悔しい」と話した。
彼の脳裏に浮かんだのは、1994年米国W杯決勝のブラジル戦で、バレージ、マッサーロが外した後、5人目のエース、ロベルト・バッジョまでが失敗したイタリアのPK戦か。あるいは2000年シドニー五輪準々決勝、米国とのPK戦で中田英寿(なかた・ひでとし)が外して敗れたあのシーンか。
いずれにせよ、本田は自らのミスキックで敗れた試合の直後に、自らをバッジョや中田になぞらえて語ったのだ。
香川に、このずぶとい神経と毛の生えた心臓があれば、と心底残念に思う。本田だって悔しいに違いないし、うちひしがれてもいただろう。それでも前を向いて大きく見せることができるのが、彼のすごいところだ。
いつまでも座り込む香川の腕を取って立たせたのは、ハビエル・アギーレ監督だった。アギーレは「PK戦は運。勝つ確率は50%に落ちる」と話したが、多くの好機を作りながら勝ちきれなかったのも、監督の責任ではある。「勝利に値するプレーをしたのはわれわれだ」の負け惜しみも、アジアで8強止まりの事実の前では色あせる。
ただでさえ、前任地スペイン時代の八百長疑惑で監督の座は危うい。告発の受理が確認されれば、正式起訴に向けて調べが本格化するが、日本サッカー協会の大仁邦弥(だいに・くにや)会長は敗戦後、早々に「続投です」と宣言した。
アギーレも「日本はこれで死んだと思ってはならない。日本は生きている。しっかり上を向いて戦います」と続投に意欲をみせている。
アジア杯で見せた日本のサッカーは極めて魅力的だった。しかし勝てなかった。それではザッケローニ前監督と何も変わらない。「八百長」の嫌疑とも戦わなくてはならないこのメキシコ人監督に、本当に今後も日本サッカーの命運を託すのか。(EX編集部/撮影:中井誠、ロイター、共同/SANKEI EXPRESS)