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【まぜこぜエクスプレス】Vol.48 自閉症の不思議な世界(3) 凸凹が引き寄せた出会い  

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.48 自閉症の不思議な世界(3) 凸凹が引き寄せた出会い  

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マイペースでおおらかな村上真雄さん(左)、しっかり者で努力家の由美さん(右)の夫婦。自宅も障がい特性にあわせて、暮らしやすいように工夫しているという。写真中央は一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる(越智貴雄さん撮影、提供写真)  「コミュニケーションが苦手」と説明されることも多い自閉症だが、実際に会ってみると、それはマジョリティー側の一方的な価値観による思い込みではないかと気づかされる。独特の感覚や視点をもつ、魅力的な人が多いからだ。今回は、その魅力で互いを引き寄せ合ったカップルを紹介したい。

 一緒になれば、面白い

 村上由美さんは、主に言葉の発達が遅れている子供や家族などのサポートを行うプロの言語聴覚士だ。実は彼女も4歳まで言葉をしゃべっていなかったという。「人間の言葉が重要な音声情報だと認識できていなかった。絵本は読めていたので文字と音をつなげることで、言葉が認識できるようになった」と話す彼女は、4歳ごろから「自分は他の子と違う」と意識しており、6歳で自閉症を告知された。

 一方、パートナーの真雄さんは遅刻が多い、不器用、友達ができないといった特徴があり、いじめられたが、マイペースに生きてきた。30歳を過ぎ仕事や人間関係に行き詰まりを感じた頃、アスペルガー症候群(知的障がいのない自閉症)とわかった。まだアスペルガーという言葉が今ほどメジャーではなかった1997年、「当事者から発信できるものを作りたい」との動機で「アスペルガーの館」というホームページを立ち上げた。

 「アスペルガーの館」を知った由美さんが真雄さんにメールを出したのが、2人の出会いだ。「子供の時に自閉症とわかったと聞き興味を持ち、一緒になれば面白いかなと思った」と話す真雄さんだが、由美さんと出会ったことで、アスペルガーに対する好奇心はうせてしまったのだという。「彼女と僕もかなり違うので、アスペルガーというくくりに意味がないと思った」。結局、アスペルガーの館の掲示板の管理は、由美さんが引き継ぐことになった。由美さんは真雄さんのことを、「たいたい族なんです」と苦笑い。「やりたい、したいことしかしないから、後始末は私がやるしかない」。「しっかりした妻で、ありがたいです」とフォローする真雄さんは、ウェブと出版を一つの技術で行うソフトウエア開発の会社を立ち上げたばかり。由美さんのサポートを受け、二人三脚で会社経営に取り組んでいる。

 スペックを補い合う

 聴覚障がい者のくらげさんと、あおさんの出会いもインターネットだ。補聴器マニアのオフ会で知り合い、くらげさんがひとめぼれ。「なぜつき合った?」の問いに、あおさんは「面白いから」と即答する。実際に、お互いの特性もネタにしてしまう2人の会話は、おなかを抱えて笑ってしまうほど面白い。

 だが、音や光が苦手な感覚過敏があったり、人の顔が判別できなかったり、こだわりが強かったり、自閉症の特性が強いあおさんの生活は容易ではない。「自分のスペックがよくわからない」とあおさんはポツリ。「お釣りの計算ができなくて、いつも10円がキャッチ・アンド・リリースされてくる。いくら使えばいくら残るのかがわからないから怖くてお金が使えない」。一方のくらげさんは宵越しの銭は持たないタイプで、あるだけ使ってしまうため、通帳やキャッシュカードはあおさんが預かっている。「尻に敷かれているのは私なんです」と、くらげさんが言うと、すかさずあおさんが「座り心地は悪くないです」。

 熟練の漫才師のよう

 2組どちらもジグソーパズルの凸凹がカチッとはまるようにしっくりくるカップルだと思う。だからといって「思いやり合っている」とか、「愛し合っている」とか、そういうことではない。何だろうこの感じ…と考えていたら思い当たった。熟練の漫才師だ。独特のテンポ。声を張ることなく、力の抜けた感じのボケと鋭いツッコミ、言葉足らずの相方の説明のフォロー、ポロリとこぼれ落ちたような言葉も拾い、みごとネタにする。クスクス笑いの中に、時折ドカンとした笑いも入れてくる(笑う私たちを「何がそんなにおかしいの?」と見る顔がまたいい)。

 ちょっとしたスリルある会話もスパイスになっていて、上品でセンスがいい笑いなのだ。しかも、その会話から、その人それぞれの自閉症という特性も自然に伝わってくる。教えられている感がないのでスッと入ってくる。

 それぞれの障がいからくる日常の「生きづらさ話」も満載だ。深刻だからこそ、独りじゃない方がいいのだとも思った。だからといって、もちろん誰でもいい訳じゃない。めぐり会うって、運、不運も確かにあると思うので、凹凸の磁力で引き合い、運命の赤い糸を手繰り寄せた2組なのだろう。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表  東ちづる/SANKEI EXPRESS

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